彼女の隣を歩くのは・・・


「おはよう、珀明」

朝一番長官達がまだ朝議をしている時間、下官達は既にフル起動で働いていた。
上司達が仕事をする前に仕事場の環境を整えて置くのも下官の仕事だ。
その時間そんな声を書けてくれる女性官吏は一人しかいない・・・というか女性官吏なんて今ここには一人しかいないのだが。
珀明はその声に振り返った。
パタパタと小走りで駆け寄ってくるのは同期のだ。

「あぁ、おはよう。・・・・相変わらず朝から元気そうだな」
「まぁ元気じゃないとあの尚書の雑用なんてやってられませんから・・・」
「そりゃそうだ」

珀明は同意した。
数回戸部から要請があり手伝いに行ったことがあるが、色々ありえなかった。
体力的にも精神的にも辛くてその時は何故が毎日生き生きしているのか分からなかった。
慣れもあるのだろうが信じられない。
二人は部署のゴミをゴミ捨て場まで運んだ。

「いや〜なんか、こうたくさんあると頑張ったって気になるよね。忙しい日の翌日のあのたまり具合なんてある意味最高」
「・・・そうか?」

最近珀明はが意外に雑用好きだということに気付いた。
戸部であんなに生き生きしているのも分かる。
珀明は別に雑用が嫌いなわけではないがやはり官吏になったからには政に関わる仕事がしたかった。
他の人も同じであろう。
手の空いたついでには紙を持ってかえろうといった。
その辺の気の利き具合が最近女性官吏に対しての偏見がなくなった理由にもなるのだろう。
出仕したての頃の自分には考えもしなかった事だ。
紙ならまだ充分にあると反論したところ、どうせ直ぐなくなり、持ってこなくてはいけないと返ってきた。
なるほど。
そして秀麗に対してもそうだったが女といえども力はかなりあった。
家事も体力勝負である。

「よっと・・・」

軽々と珀明の倍の量の書類を持つに珀明は何も言えなかった。
とりあえず負けじと持つが持ててと同じ量だった。
ありえない。

「・・・・・・お前ありえないから・・・」

珀明がげっそりとしていうとがやっと持っている紙の量に気付いたようだ。

「えっ?そうかな・・・・
とりあえず仕事を早く終わらせようと思っていたら力ついちゃって・・・。
・・・・もしかして珀明より力あったりするのかな」

もしかしなくても両者の表情を見れば一目瞭然だ。

「これはちょっと女の子として引くかもね・・・」

は流石に苦笑した。
別にモテようなどとは微塵も思ってはいないがこのような差を見せ付けられると少し凹む。

「珀明はやっぱり大人しくて可愛らしいこの方が好きだよね・・・・」
「・・・・え・・・・」

珀明はの突然の問いに思わず持っていた紙を落としそうになった。
自分でも辛いくらいの量を持っているのでかなり平衡感覚を保つのに苦労した。

「あはは、そこまで動揺しなくても・・・・。
言わなくても分かっているから。うん、そっちの方が似合うしね」

持っていた紙を片手で持ち珀明の肩をポンと叩く恐ろしい芸当をみせては戸部へと続く廊下を「またね」と手を振りながら去っていった。
流石の珀明も引いた。

しかし何故あいつはあんな事を言ったのだろうか・・・・。
意外にもの言葉はずっと珀明の中に居座り続けた。
あまりにも考えこんでいたため『魔の室』と呼ばれる吏部尚書室にもなんの感想も持てなかった。
とりあえずその辺のものから積み上げていく。

「・・・吏・・・碧官吏・・・?」
「えっ・・・あっはいっっ!」

自分が呼ばれているのにも気付き、珀明は振り返った。
そこには憧れの絳攸が立っているではないか。これは大きな失態だ。

「・・・えと・・・確かにこの室を見て、気持ちは分かるが・・・それは積み上げすぎだと思うぞ・・・」
「・・・・え?」

珀明が目の前の書簡に目をやると自分の背を遥かに越え、天井まで積み上がっていた。
自分でもどうやったのか覚えてない。
唖然と見上げてしまったがそれを自分の失態だということに気がつき珀明は頭を下げた。

「申し訳ありませんっ」
「あぁ・・・むしろこっちが悪いんだけどな・・・・。手伝う」

もとは黎深が仕事をサボっていたのが悪いのだ。
この室の掃除が嫌で辞めていった官吏もいる。
珀明は何事も文句を言わずやってくれる。
こんな人材今無くすには惜し過ぎるっ。絳攸もまた必死だった。
そしてまた珀明の中で絳攸の株が急上昇したのであった。

大分片付いてあとは黎深が頑張るのみとなった室は二人の心に充実感と虚しさを残した。
片付けても使われないと全く意味がない。

「やっと終わったな・・・お疲れ・・・・」
「はいっ李侍郎こそお手数おかけしてしまい申し訳ありませんっ。ありがとうございました」

絳攸に深々と頭を下げた珀明はふとの言葉を思い出した。
そういえばどういう縁なのかと絳攸は面識があった気がする。
珀明は思い切って聞いてみた。

「あの・・・っ、吏部侍朗はやはり大人しくて可愛らしい女性の方が好みなんでしょうか?」

絳攸は突然の質問に言葉につまった。
・・・やはりって何が・・・。・・・はっ!
・・・まさか俺と秀麗の見合い話の事を知っていてこんな質問なのか・・・?
確かに珀明は秀麗と同期だし仲がいいしそれ以前に碧家直系!
いくら政に疎いといってもやはり国試にも受かった息子に対して出世させてあげたいと願うもの・・・・・。
年も丁度いいくらいだし・・・・。

いつもなら「女は好かん」と一蹴する絳攸だか玖琅の言葉以来敏感に反応するようになってしまった。
かなり悩んでいるそぶりをみせた絳攸に対して珀明も焦っていた。
・・・・あれ、違うのか?

そういえば絳攸様って秀麗とか とか活発な機転の利く女と以外話しているのを見た事がない。
やはりそういう系が好みなのか・・・・?
そういえば絳攸様は紅尚書の養い子!
秀麗と昔からの付き合いだったのかも・・・・更にいっては許婚っ!?
沈黙の中二人の想像はあらぬ方向まで進み時間の経つにつれ気まずい空気が流れ始めた。

「あっ、変な事を尋ねてしまいすいませんっ。書簡配りに行ってきます」

そういって珀明は室を出ていった。
取り残された絳攸はまた沸き上がってきた見合い話の件について悩む事になる。
脳内では決着はついたがやはり簡単に割り切れるものでもなかった。

珀明は、今日は考え事をしていてもあまり支障のない雑用に徹する事に決めた。
これで他に迷惑をかける事もないだろう。

・・・・しかし何故自分は絳攸様にあんな事を聞いてしまったのだろう。
考えれば分かる事であるのに・・・・。
変に思われていなければいいのだか・・・・。

気付けば前方からの声がした。
珀明は声を掛けようとしたが隣を見てやめた。
何故か彼女の隣に欧陽侍郎がいる。
・・・なんか遠目から見て話が白熱しているように見えるのは気のせいだろか・・・。
そもそも欧陽侍郎と一体どこで知り合いになる機会なんて・・・・。

「・・・・そこであの方はこう言われたのですよ『そこでその法案をいれるのは阿呆のすることだ』・・・と」
「・・・・素敵です・・・」

・・・・どこが?

珀明の心の突っ込みも虚しく玉は語っていく。

「・・・その後に色々具体的理由、それをふまえた案を述べられたのですよ。
やはりあの方なしでは朝廷は動きませんね・・・・」
「全くですっ。私も早く朝議に出られるようになりたいですっ」
「貴方の後見は黄尚書ですから・・・・きっと昇進も早いですよ。
お待ちしております。
・・・・貴方とも論議してみたいですしね」

玉は滅多に見せない穏やかな笑みでに言う。
流石の珀明もそれには驚いた。

「・・・・はい、是非。お手柔らかにお願いします」

そこまで話し、は珀明に気付いた。

「・・・あっ・・・」

玉も珀明の方を見た。
ここまで気付かれ下がるわけにも行かず珀明は玉に会釈した。
工部宛てに書簡があったのだ。

「吏部からお持ちしました。ご確認ください」
「あぁご苦労。では茈官吏また今度・・・・」
「はい、貴重な話ありがとうございます」

玉はと珀明の書簡を工部の中まで持っていった。

「・・・しまった・・・また話し込んでしまった・・・・。
黄尚書怒るだろうな・・・」

げっそりとして肩を落とすに珀明は尋ねた。

「何をそんな熱く語っていたんだ・・・?」
「え・・・やっぱり熱いの分かる?」
「まぁ・・・・あれで熱くないと言うのなら僕はそれ以外の表現を知らない」

は少し渋った。
自分達は陰で黄尚書を慕う会(勝手に命名)である。
あまり公言しては本人にバレた時気まずいことこの上ない。

「・・・えっと・・・趣味が同じでね・・・意気投合しちゃって・・・」
「・・・そうか・・・・」

結構得体の知れない話だったのであまり深入りしない方が良いと珀明は思った。
それから楸瑛に出会った。

「やぁ、殿。
今夜邵可殿のお宅にお邪魔しようと思っているのだが、君は今夜どうだい?」
「・・・そうですねぇ・・・。黄尚書次第ですが・・・多分伺えると思います。
邵可殿に何もお伝えしていないのですが、大丈夫でしょうか・・・?」
「では、私から。
殿の料理楽しみにしていますよ」
「秀麗ちゃんほどではないですが、精一杯頑張らせていただきます」
「・・・では、私はこれで・・・
そうそう、主上見かけませんでした?」

その台詞に二人は顔を見合わせた。
・・・主上?
何故外朝のこんなところに主上が・・・?

「・・・では、見かけましたら直ぐに戻るようにお伝えしてください。
出ないと私が絳攸に叱られてしまいますからね。
では殿、また後ほど」


ウインクを残し、楸瑛は見事爽やかに去っていった。これが色男というものなのか・・・と珀明はまじまじと見せ付けられてしまった。
しかし当の本人は全くなびくそぶりも見せない。

そしてまたしばらくすると角からひょこりと王が顔を出した。
流石にそれには二人も固まった。

「・・・えっと主上・・・?」

珀明が恐る恐る声をかけた。
が苦笑していった。

「・・・全く、こんなところで何をやっているんですか。
藍将軍が探しておられましたよ」
「・・・うぅ・・・だって・・・仕事が・・・」
「なんなら戸部に手伝いに来ますか?
黄尚書なら喜んで働かせてくれますよ」

喜んでいじめてくれるよ、の間違いではないだろうか・・・と劉輝は思った。
それなら絳攸に怒鳴られながら仕事を片付けた方がましだ。

「ほら、主上。お戻りくださいませ」
「・・・じゃあ府庫に行ってから・・・」
「府庫には藍将軍が今向かってますよ」

釘を刺され劉輝は本格的にしょげた。
こんなのが彩雲国の国王だから笑えてしまう。

「・・・が余をいじめる・・・」

ぼそりと呟いた劉輝には劉輝の耳元でこそりと呟いた。


「主上・・・そんなんで秀麗ちゃんに振り向いてもらえると思っているんですか?
せめて私以上に働かないと駄目じゃないですか?
秀麗ちゃんだめだめな男嫌いますよ。
秀麗ちゃんの前だけ良い格好していても直ぐにばれます」

例えば某若様とか。
その言葉を聞いた劉輝はざっと顔を青くした。

「・・・戻る」

劉輝はすくっと立って執務室まで歩いて行った。

「・・・お前・・・何言ったんだ・・・主上に・・・」
「・・・え?あぁ栄養剤になることを少し・・・」

・・・なんでそんなことを知っているんだ・・・?と二人の関係を知らない珀明はかなり驚いた。

その他王と同じくサボり実行中の飛翔にあってたしなめてみたり、庭にいた霄太師に声をかけてみたり、何故か の周りは凄い人ばかりだ。

しかし・・・・かなり荒っぽい性格でしかも天然であるのには中々モテるではないか。
会話を見ていれば、皆少し雰囲気が柔らかくなるのが分かる。
ちょっとした危機感を持つ自分に珀明は驚いた。

・・・・何故、危機感・・・・?

よく考えれば彼女の近くにいるのはいつも高官。
官位の低いのなんて自分くらいではないか・・・。
珀明は決意した。

「・・・・・・っ」
「なっ・・・・何?」

いつもと雰囲気が違う珀明に は反射的に構えてしまった。
珀明は の肩をガシリと掴んだ。

「僕は絶対上に行く!の隣を自信を持って歩けるように!」

・・・そして横に並んでいても違和感のない存在になってやる!

言外に含まれた言葉をが知る事もなくそのまま珀明の自己完結で終わっていった。
は最後まで首を傾げたままだった。
彼に何があったのだろう?
は朝のことを思い出した。

・・・そうか、官位が上がれば書簡とか紙を持たなくていいもんね!

体力がちょっとばかり無くたって持たなければ問題ない!

・・・勘違いは勘違いのまま、終わっていった。


   

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