偶然は時に必然に



それは朝賀が終わり、数ヵ月が経った頃だった。
茶州の件も何とか収集がつき、ほっとしていたのも束の間、絳攸の元に一通の文と共に色んな贈り物が届いた。
紅州に無事についた玖琅からで黎深が仕事をサボって迷惑をかけたとの事であった。
秀麗との見合い話の事から玖琅に敏感になっていた絳攸だったが文を見る限り見合いやそれに類似した事は書かれていない。

「・・・玖琅様・・・」

絳攸は一息つき、玖琅のマメさと優しさに感動した。
邵可様じゃなくていい。玖琅様に拾われていればまだ・・・・。(七歳しか差がないので少し無理があるが)
そう思いながら絳攸は送られて来た品を見た。
どれも紅家で屈指の匠が作った物ばかりで絳攸は目を丸くした。
こんなもの自分がもらっていいのであろうか。
送られてきた物のどれをとっても金が数十枚は軽く飛ぶ。
あまりにも高価すぎるものばかりで、絳攸は文を見て確認した。
もしかしたら黎深、または邵可宛かもしれない。
それらしき文章は無し。
家人にも聞いてみた。
届いたのはこれが全部。全て絳攸宛だという。

絳攸は嬉しいやら申し訳ないやら複雑な気分になった。
こんな高級品をどうしようか・・・・と置き場所に迷った時、絳攸の目に一つの箱が目についた。
他の物よりはるかに小さいそれは絳攸の好奇心をくすぐった。
絳攸は丁寧に紐をとき、蓋を開けた。
そしてその瞬間固まった。

・・・簪・・・・?

どう見ても女物の簪だ。
絳攸ははて、と首を傾げた。
まずうちにこれを使う者はいない。

・・・・まさか・・・・。

絳攸は思い当たる節がある事に気付いた。

「・・・まさか玖琅様・・・。
あの静蘭に半ば脅されて参加した女装評議会の事がバレて嫌味として送られてきたのか・・・っ!?」

・・・・絶対違う。

この場に誰かいたら九割の人がそう突っ込む。

しかし、誰もいなかったため絳攸の思考は変なところへ傾くばかりであった。
・・・・そう・・・だよな・・・黎深様の名に傷がつくよな・・・。
一度強制的に出場させられたとはいえ・・・。
絳攸は今すぐ紅州まで弁解しに行きたい衝動に駆られた。
が明日また出仕しなくてはいけない。
官吏の悲しい性である。

「・・・玖琅様、誤解しないでください・・・
俺はけして望んでやったわけでは・・・・」

・・・・多分玖琅の方もそんな誤解されたくない。

「・・・・どう思う?」

絳攸は恥を承知で楸瑛に簪の件を聞いてみた。
話を聞いていた楸瑛の第一感想は、青い・・・。だった。
女性を避けまくっていたため、今が丁度青春真っ盛りなのだろう。
しかし、王が聞いていないのが幸いだ。
楸瑛は少し考えてから自分の率直な意見を述べた。

「・・・まぁ・・・私の見解としては十中八九秀麗殿に渡せ、との無言の圧力だと考えるけど?」
「・・・そっ・・・そうか・・・」

絳攸は内心安堵した。
女装の事はバレてない。
対して楸瑛は絳攸の反応に首を傾げた。
秀麗の名を出して何故安堵したのか・・・。
ふっきれたのは分かっていたが、絳攸が落ち着いてきける話題ではないはずだ。

絳攸は安堵した次に楸瑛の言葉をよく考えた。
そして見事楸瑛を裏切らない反応を見せた。

「・・・玖琅様・・・」

絳攸は机に突っ伏した。
昨日の感激を返せ。
そこから絳攸はまた考え出した。
秀麗はまだ茶州にいる。
渡すのにはまだ時間がある。焦らなくてもいいが・・・。
・・・いや、でもこれで簪を秀麗に渡したら玖琅様の思うツボなのか・・・?
・・・かといって使い道もないし・・・。

どうするっ、どうする俺!?(某CM風に ちなみにカードは『秀麗』『他の人』『自分で使う(←この辺が混乱中)』)

楸瑛はお茶を飲みながら絳攸の様子を面白そうに眺めていた。
無言でここまで反応してくれる人も中々いない。
・・・・ってか、あげる人がいないならそのままにしておくもよし、飾っておくもよし・・・。
紅家屈指の匠が作った簪ならその場にあるだけで存在感がある。
むしろ、使う人の方が珍しいと思うが・・・。
勿論、そんな事は思っても口にはしない。面白くないし・・・。
やはり人間追い込まれると何をしだすか分からない。

「・・・そうか・・・秀麗に贈らなければいいんだな!」

悩んだ結果絳攸が出した答えがこうだった。
楸瑛は唖然と絳攸を見てしまった。

に贈れば良いのか!」

・・・何故そうなる。
と、楸瑛は心の中で突っ込んだ。が口には・・・(以下略)

絳攸の鉄壁の理性は勿論まともに考える能力も失われつつあるらしい。
背後でガラガラと崩れ落ちていっているのが目に見えるようだ。
元々恋愛関係については疎い方であるのでさらにだろう。

どうしても『誰かに贈らねばならない』という思考が離れなかったらしい。

楸瑛は苦笑した。
しかし・・・よりにもよって・・・。
楸瑛の見た限り彼女はかなり人気があると思われる。
その仕事の出来っぷりに戸部では女神扱い、初の女人官吏という事もあり高官との接触率増。
容姿も良い、性格も可愛い。
こんな彼女がモテないはずがない。
まだ女人官吏は受け入れの空気が曖昧だが、もしこれが良い方に流れてくれば後宮の女官よりもいいよられそうだ・・・。
その争いの序幕に関係ないながらも入っていくことになる。
楸瑛の見る限り、を狙っているのは、ほぼ高官、もしくは今後期待できる者ばかり。
の性格も天然で避け続けているので、秀麗並に難しくなる。

実は前々からは黄尚書から簪を贈られている。
ついでに自分も贈っていたりする。偶然だが。
で、今回絳攸も贈るのも簪。
・・・これは一波乱ありそうだ、と楸瑛はにやりと笑んだ。
勿論、ここまで考えているが口に・・・(以下略)

「・・・まぁ頑張ってくださいね。
彼女そういう高級な物好きですから・・・きっと喜びますよ」
「そっ・・・そうなのか?」
「えぇ。
私が言うのですから、間違いはありません」

楸瑛の笑顔があからさまに怪しかったかが絳攸は気づかなかった。

(後の)教訓:中途半端に大事な相談は楸瑛にしてはいけない。

は最近特に機嫌が良かった。
やはり自分は綺麗な物が好きなのだろう。
前に鳳珠に黄州の簪を、最近では楸瑛に藍州の簪をもらったのだ。
始めは飾っておいたのだが楸瑛が使ってくれた方が嬉しいというので早速つけて見た。
鳳珠も使ってくれていることをひそかに喜んでいるようだ。(と柚梨から又聞き)

「・・・はぁ・・・・やっぱり光物っていいわねぇ…。
鳳珠様と藍将軍に感謝」

やる気も日頃の三割増で良い事ばかりだ。
は大量の書簡を運びながら歩いていた。
正直持ち過ぎて前が見えなかったりする。
をみて周りが避けてくれるのだが、曲がり角ではそうはいかなかった。

「・・・うわっ」
「・・・へ??」

目の前にある書簡と紙の山が崩れていくのがコマ送りに映った。
そして、その奥に見えたのは・・・・

「・・・・こっ・・・絳攸・・・じゃなかった・・・
吏部侍郎様っっ」

書簡の雪崩が止まった。
絳攸が反対側で受け止めてくれたらしい。

「・・・・?官吏・・・・。
たくさん持つのは良いが。他に迷惑をかけないように」
「・・・すいません・・・。つい調子にのってしまいまして・・・。
今後気をつけます」

絳攸は体勢を立て直したをみて一息ついた。
見るからにおぼつかない。彼女は大丈夫だと思っているが、見ている側としてはいつもはらはらする。
絳攸の視線が自然との髪にある簪にいく。
今日は、黄色の石がついた高価な簪を挿している。
その周囲には簪を引き立たせるように小さな飾りが色々つけられていた。
そして、今自分の持っている簪の存在に気づいた。

・・・・渡さなければ・・・。

は絳攸に一礼してその場を去ろうとしていた。

「そのっ・・・・・・・」
「・・・はい?」

が立ち止まり、後ろを振り返る。
今度は書類は崩れずにちゃんと体制を保てていた。
上で少しぐらぐら揺れているが、それくらいの微調整はお手の物だった。

「・・・えっと・・・その・・・」

適当な言葉が見つからない。
呼び止めてから絳攸は焦った。
は首を傾げた。・・・なんかさっきと雰囲気が違う。
朝廷内で絳攸が鉄壁の理性の仮面を外す時なんて、王達の前か黎深の前か邵可の前か・・・それほどしかないのに。
しかも、こんな人が通る廊下などでは極めて珍しい。

「・・・李侍郎?」
「これを・・・」
「・・・・え・・・・」

絳攸はに高価な箱を差し出した。
は焦った。受け取りたいのは山々だが生憎両手は大量の書簡や書類で埋まっていた。
たくさん持ちすぎていて両手でないと支えられない。
明らかに渡す時機が違う。
しかし、受け取らないと絳攸の立場もない。はかなり焦った。

「・・・あの・・・ちなみに中身は・・・?」

もしかしたら仕事の何かかもしれない、一緒に運んでくれという意味なのかも。とは考えたが、明らかに違うことも分かっていた。
絳攸の持っている箱は高価すぎる。おそらく紅家など彩家が使うようなもの。
そして、箱の大きさからして・・・おそらく中身は首飾りか簪。
・・・しかし、何故絳攸が自分にそんなものを?
絳攸は、やっとの両手が塞がっていることに気づき我に返った。

「・・・あっ・・・すまない・・・」
「いえ〜・・・えっと、これ返してきましたら私からお伺いいたします。
今はお気持ちだけ・・・」
「・・・えっ、あぁ・・・」

は微笑して絳攸の元を去った。


「・・・うーん・・・絳攸としては頑張った方かなぁ・・・。
ねぇ・・・主上」
『・・・・・・・・・。』

たまたま脱走した劉輝を捕まえた楸瑛は偶然その場に出会ってしまい陰からこっそり見守っていた。
実に楽しそうな楸瑛に対して、劉輝はあまり面白そうじゃない。

・・・チッ、絳攸め・・・何を考えておるのだ・・・。

秀麗に対しては大分寛容になれる劉輝なのだが、最愛の義妹に関しては側近といえども容赦は無かった。

に主導権をとられるとは・・・・
絳攸なんぞにやれるか」

初めて聞いた劉輝の本音に楸瑛は凍りついた。
いつもの柔らかい雰囲気は微塵も感じられない。
その劉輝が二人を見る視線は果てしなく冷たかった。

「少しでも期待した余が馬鹿であった。
・・・戻るぞ、楸瑛。
迷子なんかほっておけ・・・」
「・・・・えっ!?・・・あぁ・・・はい。
あの主上・・・」
「なんだ?」

そうとう機嫌が悪いらしく目が据わっている。
さきほどまで、今日の昼ご飯について語っていたのが嘘のような雰囲気だ。

「絳攸がいた方が仕事もはかどって良いのでは?」
「知るか。
楸瑛、お前がいるだろう。手伝え。
・・・あぁそうだ・・・」

劉輝はくるりと振り返った。
表情は綺麗な笑顔だったが、目が笑ってなかった。

「楸瑛もに簪を送ったんだったな・・・」

・・・バレてる・・・・。
楸瑛は内心、に関する劉輝の鋭さに敬服した。
これは思わぬ伏兵かもしれない。

「もし・・・下手なことをすれば・・・。
楸瑛とてどうなるか分からぬぞ・・・」
『・・・・・・。』

そして、久しぶりに某公子との血のつながりを実感した楸瑛であった。


「・・・さて、午前中の仕事は終わり・・・・っと。。」

は書き上げた簡易書類を積み上げて大きく伸びをした。
昼食をとってから絳攸の元にでも行こうか・・・。

そう思いは食堂へ向かった。
回廊を渡りあたりを見回していると、何故か庭に絳攸の姿があった。
ははて、と首をかしげる。
吏部はそこそこ忙しいようだったし、王の執務室も仕事はたまっているはずだ。
その中、絳攸が庭にいる理由なんて一つしか考えられない。
は昼食を後回しにして絳攸の元へ向かった。

「・・・あの〜・・・吏部侍郎・・・」
「・・・・はっ!か」

絳攸は知り合いの姿を見つけてほっとした。
とあって以来、吏部にも王の執務室にも府庫にも辿り着けなくて困っていたところだ。
何かの呪いか・・・?とまで思ったところでこの女神が光臨だ。
・・・今は昼の時間・・・助かった。

「えっと、お昼ですし・・・。
途中まで一緒にどうですか?」
「あぁ・・・そうだな・・・」
「あと・・・先ほど箱をくださいましたよね?
それは・・・」
「これか・・・」

絳攸はに小箱を差し出した。

は手にとってまじまじと見つめた。
やはり近くでみれば小さなところにまで細工が施してあり、箱だけでも良い値で売れそうだ。
そして箱を開けてみた。

「・・・うわぁ・・・素敵・・・」
「・・・玖琅様からいただいたのだが・・・別に使い道がないからな・・・・。
腐らせておくよりましだ・・・。にやる」

玖琅・・・?
の手がその言葉で止まる。
玖琅って確か邵可様の弟で以前お会いした、あの強面のおじさま。
・・・その人が絳攸に簪を送ってきたってことは・・・。

これどう考えても、好きな人に送れっていうことじゃないですか?
流石のもここまで考えられた。

「・・・あの絳攸様・・・。
これ・・・しかるべき方に渡した方がよろしいと思いますが・・・・」

絳攸はギクリと身をこわばらせた。
の言葉は言外に『秀麗に渡せ』といっているも同然ではないか。

「・・・いや・・・いいんだ。
受け取ってくれ・・・」
「・・・本当にいいのですかっ?
こんなに高価なもの・・・嬉しいですけど・・・」
なら上手く使ってくれそうだしっ。
受け取ってくれれば・・・こちらも嬉しい。

・・・さて、行くぞ・・・」

絳攸はふいとそっぽを向いて歩いていった・・・・が・・・。

「・・・あっ・・・絳攸様・・・そちらは府庫・・・・」

勿論、逆方向に足は向かっていた。


そしてその後。

「吏部侍郎、頂いた簪早速使わせていただいております。
本当ありがとうございました」

の頭には赤い宝石のついた簪がきらきら光っていた。

「・・・あぁ、好きにしてくれ」
「絳攸、こういうときは『似合う』とか『可愛い』とか言うものだよ・・・」
は楸瑛の指摘に苦笑した。

「・・・似合っていればいいのですが・・・」
「えぇ、とても可愛らしいですよ。
私のも使ってくださいね」
「はい。是非」

一礼していくを見送って楸瑛が呟いた。

「・・・絳攸・・・君はもう少し女性の扱い方を学ぶことをお勧めするよ」
「はぁ?何ふざけたこといって・・・」

楸瑛が大きな息をついて絳攸の肩を叩いた。

「・・・じゃないと・・・いつか身を滅ぼすことになるかもしれないから・・・」

・・・それはお前の方だろ。と絳攸は突っ込みたかったが、どこからか一瞬殺気が向けられたような気がした。
周囲を伺うが誰もいない。

「・・・・?」
「絳攸、私は今日明日羽林軍に行っているから主上のお世話よろしく」
「・・・珍しいな・・・」
「まぁ・・・ちょっとね・・・」

劉輝の静蘭化を見てから少し劉輝とは間をおこうと考えた楸瑛であった。
勿論絳攸はそのことを知るわけなく、始終向けられる殺気に首を傾げながら過ごす日々を送ることになる。


   

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