英姫の元で育ち数年がたった。
元々賢かったこともあり、蘭はすぐに色んな事を吸収していった。
運動神経についても潜在能力はかなりあるようで、体力も身の回りの護身術もすぐに身につけていった。
気がつけば英姫以上に強くなってしまい、数年のうちに英姫の護衛につくようになった。
出会った頃に比べ表情もかなり豊かになり、英姫もやはりつれてきて良かったと実感した。
蘭は英姫についていき、鴛洵を初め国王軍の手助けをした。
英姫の先読みは国王軍の強い助けとなり、見事勝利を収め彩雲国の基盤を作るのもそんなに時間がかかることでもなかった。
英姫と鴛洵も良い仲になったところで、戦も終結を迎えた。

戦が終わり、そろそろ茶州へと向かう時期に、英姫はある人物の室を訪れた。
これから紫州で王の補佐となり死ぬまで朝廷に居座るだろう人物、霄瑤璇の室だった。


「頼みがある」

この頃既に、二人は犬猿の仲であった。というかほぼ英姫の方が優勢であったが。
頼みと聞いてろくでもないことだと思い、瑤璇は断りたい気持ち一杯だったが仕方なく話を聞くことにした。
これで断ればまた何を言われるか分かったものじゃない。
色々思い当たることを思い浮かべていたが、英姫の言ったことは瑤璇の予想とは違っていた。

「蘭を預かれ」
「・・・・は?」
「紫州の、しかも後宮に入れておけば蘭にとってもいい経験となる。
ついでにしっかりとした伴侶も見つけられて一石二鳥だ。
・・・ということで霄、お前が蘭の後見となること。間違っても手を出すなよ」

ビシッ、と扇を突きつけられ瑤璇は返答に困った。
蘭は今まで英姫の侍女だと思っていたのでずっと英姫と一緒にいるものだと思い込んでいた。
事実、蘭の方も英姫にずっとついていく気でいるらしいのに。

「・・・しかし・・・どうせ後見をするのなら鴛洵の方が・・・」
「鴛洵に苦労させようとする魂胆なのは見え見えだ。
私が見るにお前はこの先ずっと生き続け朝廷に居座る」

真剣な顔で述べる英姫に瑤璇の目が少し細められた。
縹家の血なのか、適当に言っているのか区別はつかないが一瞬自分が仙人であることがばれたかと肝を冷やした。
というか、自分に面倒事を押し付ける魂胆の方が見え見えである。
そんな突っ込みは言葉になることはなく、ぐっと喉で押さえ瑤璇は英姫の話を聞いた。

「妾たちが死んでも見守っていけるのは、お前のみだ。
蘭にもしものことがあってみそれ。一生お前を恨んでやるわ。
・・・では、妾は茶州に行くが蘭のことはくれぐれもよろしく頼む」
「・・・・・。」

瑤璇の返事も聞かず英姫は出て行った。
元々瑤璇の意見なんぞ聞く気もなかったのだろう。拒否権無しの会話に瑤璇は久しぶりに心から疲れた。

しかし・・・・

英姫が去ってから、瑤璇は真剣に考えた。自分の予想通りかなり厄介事を押し付けられたことに気付く。
多分、自分の勘が正しければ彼女は恐らく・・・。
自分は膝を折るべき王が現れたらそれを補佐しなくてはいけない。
もし王に害を及ぼす存在があれば自分の力で排除しなくてはいけない。

何故もう少し早く気づいて、排除しなかったのか。と瑤璇は久しぶりに後悔というものをした。
自分に闇姫を押し付けられてしまった手前、もし闇姫が死んだら英姫は本気で自分を呪いにかかるだろう。
仙人の故、人間の呪いなど大したことないと考えているが、縹家出身のしかも天敵、縹英姫の呪いだ。
考えただけでもこの長い人生延々と苦しめられそうだ。
普通の人間なら代役も立てられるが、闇姫の代わりなど誰も出来るはずがない。
そもそも先読みの力を持つ英姫に小細工など通じるはずもない・・・・。

最悪だ。

闇姫の力は本物だ。長年王に仕えてきた瑤璇はその力を嫌というほど知っていた。
どれだけ自分が手を尽くしても、縹家の力は抑えきれなかった。
今も”風の狼”と縹家をぶつからせてはいるが、その結果はどうだろう。闇姫がいる現在、実情はあまりよろしくない。
別に今の王が使えない凡人だったら瑤璇も別にここまで気にはしなかった。
しかし、今現在王はかなりの逸材で王としての素質はここ数百年の間で一番良い。
そして、瑤璇は二人の友人と出会った。
この四人が立てば必ず良い国家になるのは目に見えている。
それを闇姫として自覚もない、たかが十数年生きた小娘に邪魔されるのは瑤璇個人として耐え難いものである。
しかし、まだ全てが失われたわけではない。
闇姫の力はまだ本格化してきていないのか、それとも縹家を離れて力をなくしたのか、今のところ王に何の支障も与えていない。
英姫の力もあって、彩雲国を統一が成せたし彩家も紫家に膝を折った。
あとは暗殺集団を蹴散らしてしまえば、完全な王権国家の完成だ。
もし縹家以外、または王の近くにおいて闇姫の力が緩和されるのであればそれに越したことはない。

そこまで考えて人が近づく気配がした。
控えめな扉を叩く音の後、これまた控えめな声が聞こえた。

「蘭です・・・。よろしいですか?」

英姫に話でも聞いたのであろう。英姫に育てられたにも関わらず英姫に似ないで本当に良かったと思う。
蘭の皮肉など英姫に比べれば全然可愛かった。もっとも彼女が皮肉を言うことなどほとんどなかったが。
銀の髪をもつ少女が入ってきた。改めてみると憎き縹家当主の面影があり、瑤璇はあまり良い気分ではなかった。

「あの・・・英姫様からお伺いしたのですが・・・。
私の後見をつとめてくださると・・・」
「・・・あぁ・・・まぁ・・・そういうことになったな・・・」

改めて事実を突きつけられると、やりきれない気分になる。
今まで何百人と後見を努めてきたが、ここまでやりきれない気分になったのは初めてだ。
蘭本人は全く悪くないので邪険に扱うこともできない。

「・・・困ったことがあったら私に言ってくれ。
王の側近になることになったから、内朝にも良く顔を出す」
「はい、未熟者ですがよろしくお願いします」

瑤璇は仕方なしに後見を引き受けることになった。
蘭自身はしっかりしていたので後宮では特に問題を起こすことなく、たまに顔を出しては自分を労わってくれるので後にかなり見直した。
しかし、瑤璇の手の施しようのないところで運命は動いてしまった。



「・・・・霄、お前の後見の娘・・・確か蘭といったな」

ある日戩華の言った言葉に、瑤璇は柄にもなくビクリと肩を震わせてしまった。
冷静を保とうとしているが、多分、顔に出ている。

「・・・蘭になにか・・・?」

一番合わせたくない組み合わせだった。
何故今頃蘭なのだ。後宮には色とりどりの華がいる。
確かに蘭の美貌は後宮でも上位を争うほどだ。
戩華自ら妻を指名する事は今までなかった。それ故瑤璇はまた嫌な予感を感じた。
一応縹家出身ということも闇姫であることも伏せてある。
運の良い事に彼女は無能であった。紫州のしかも後宮という場所にいる限り縹家の力はかなり制限させることができる。
できることなら今すぐにでも離させたいのに・・・。

蘭も蘭だ。後宮に入って結構経つ。そろそろ身を固めてもいい頃なのに全くその気配を見せない。
さりげなく話題を振ったら、『その台詞そのままお返しします』と笑顔で返されてしまった。
瑤璇は内心そんなことを思いながら王の返事を待った。
王は容姿のいい顔に少し眉を寄せ言った。

「・・・少し話をさせろ」

王は微笑した。
自分が焦っているのを見越しているのだろう。腹が立つ。

「・・・蘭とですか?
駄目です」

瑤璇はきっぱりといった。
適当に意中の男がいるといってこの場は誤魔化しておいておいた方がいいだろう。
鬼姫以外の女に興味はないくせに、立派に側室を虜にして離さない。
蘭も男に全く興味はない上、戦乱の時代から戩華と会話をしたこともある。しかし、念には念をいれ。だ。
蘭の方が落ちてしまえばどうにもならない。
もし闇姫の力が発動してしまえば尚更だ。

きっぱり断った瑤璇に戩華が目を丸くした。

「なんだ、霄。お前が狙っていたか?
それならしかない・・・手を引くが・・・」
「冗談じゃない。
万が一そうであろうとも、後ろに英姫がいる。
金を詰まれようがお断りだ」
「では、問題ないだろう。
別に側室にしようと思っているわけでもあるまいし・・・。
今夜にでも呼べ」
「一応私も蘭の後見です。
あんたが一夜を所望したと噂になればどこの男も寄って来ないでしょう。
婚期が遅れて婿がいなくなったと英姫に嫌味を言われるのは勘弁です」
「その時は俺がもらってやるよ。
なんなら瑤璇でもいいんじゃね?」
「ですから・・・」

不毛の言い争いにも終止符が打たれた。

「命令だ。
蘭に今夜呼べ」

王の言葉にたとえ瑤璇でも逆らえなかった。
内心舌打ちをしながら瑤璇は頭を下げた。

「・・・御意・・・。
かなり不本意ですが・・・。
一応知っていると思いますが、英姫と一緒にあの戦場にいた娘です。
ただの深窓な女ではないことをお心にとどめておいてください」
「まぁとって食いやしないさ。
あ、前言撤回。
蘭が望めば・・・いいだろう?俺は来るものはこばまん」

不敵な笑みを浮かべた戩華に瑤璇は反論するのを諦めた。
すべては戩華が望んだことか。

「勝手にしてください。
下手に手を出して殺されてもしりませんよ」

冗談ではないことを戩華はなんとなく誘ったらしい。

「気をつけるさ」

ここまで来たらもう何も言うまい、と瑤璇は目の前にある仕事に打ち込むことにした。



そしてその夕方王の命令を無視するわけにもいかず、瑤璇は仕方なく蘭の元に向かった。

「・・・蘭・・・」
「あら、瑤璇様から訪ねられるとは珍しいですね・・・。
何か重大なことでしょうか?」
「何故、そう思う」
「貴方は重大な用件がなければここに訪れませんから・・・。
縁談ならお断りですよ」

口ではそう言っていても蘭の顔は穏やかだった。
すぐにお茶の用意をする。

「・・・で、何でしょう?
私に用事ですか?それともいい娘を紹介しろとかそっち系ですか?」

流石、英姫の教えを受けた娘だ。聡い。
瑤璇の前に茶と茶菓子と出し、蘭は訪ねた。

「・・・お前にだ。
主上が今夜お前と話をしたい・・・と」

蘭の動きが止まった。
蘭自身自分がどういう存在なのか知らないわけではない。
英姫は包み隠さず教えてくれた。
本当はこの朝廷内にいることすら許されないのに、自分はここにいる。

「・・・何故断らなかったのですか?」
「王の命だ。断れるわけもないだろう」
「それはそうですけど・・・。
主上は私のことをご存知で?」
「先の大戦のとき少し見かけたくらいであろう。
闇姫どころか、縹家の人間ということすらしならない。
羽羽殿が告げ口をしていないを前提だがな。
一応口止めはしておいたから羽羽殿ではないと思うが・・・」

瑤璇は出されたお茶に口をつけた。
そして目の前の蘭をみる。
確かに蘭は美しかった。縁談は山ほど届いている。しかしどれにも蘭は応じなかった。

蘭はしばらく考えていたが大きくな息をついていった。

「・・・まぁいいでしょう。
主上がお呼びであるなら、これ以上ない名誉として会いに行きます。
もし彼に何かあったとしても私のせいにしないでくださいね。
その場合主上が愚かだったということにしておいてくださいませ。
せめてもの情けとして五体は満足で返します」

王でなかったら五体不満足になるのか?と問いたかったが蘭の目が本気なのでやめた。

「・・・問題を起こす予定でもあるのか?」
「さて・・・?
もし彼が取るに足らない方だったりしたら、分かりませんが・・・」

笑顔で言う蘭に瑤璇は沈黙した。
この娘、本当に王が取るに足らなかったら平手の一、二発はありそうだ。
まぁ戦も体験してきた王だし、器もかなり広いから許してもらえそうだ。
瑤璇から見て取るに足らない要素はほとんどない。
それでも二人の関係を考えるからして接触はなるだけ避けたかった。
むしろ蘭が暴れてくれたら好都合かもしれない。後宮から出せるだけでも・・・。
・・・茶州の英姫の元でじっとしてくれるのが一番なのだが・・・。

瑤璇は立ち上がった。

「・・・では後で使者が来るだろう。
支度をしておくように・・・」
「はい」


「・・・王様が私にねぇ・・・」

蘭は瑤璇が出て行ってから首を傾げた。
顔を合わせるのは、先の戦乱の時以来だ。
あの時はそれほど家臣の差がなかった。
それに英姫の守役をしていたので、英姫の元に王が訪ねて来るたびに顔をあわせていたものだ。
中々聡明で面白く、容姿もいいことは覚えている。
しかし性格は中々悪いようだ。
気に食わない奴は、片っ端から血を絶やし、側室を増やすが子どもができれば子ども共々ほったらかし。
少しはかの藍家の当主を見習って欲しいものだ。
確かに平等といえば平等であるが、その見向きもしない王を振り向かせるために後宮には派閥ができ、毎日殺伐とした雰囲気がある。
蘭はそういったことには全く興味がないので外から観察するのが日常である。
自分は容姿がいいので、一つでもヘマを起こすと簡単に矛先が向くに違いない。

「・・・いや・・・向くじゃん・・・確実に」

蘭は苦笑した。
王からお呼びがかかったという事はそういうことだ。
入りたくもない争いに巻き込まれなくてはいけない。
残念ながら戦乱と縹家の猛攻のど真ん中にいた蘭にとっては後宮の女達がしかける軽い嫌がらせなどとるに足らないものだ。
毒にも大分耐性がついてきているし、暗殺者の一人や二人いたって構わない。
美貌に重きを置いているわけでもないので体に傷がつこうが一向に構わない。
実際背中に深々とした傷があるのだが、それは戦乱の中生き抜いた立派な証であり誇りだ。
将来・・・自分を娶ることになる男はこの傷をみてどう思うか想像するだけで面白い。
・・・まさかその相手が王になるとは思わないが・・・

「・・・しかし・・・何の用があった私に?」

悩んでいても仕方がない。
蘭は支度を始めた。



   

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