この地に雪と共に舞い降りたのは、運命を狂わす人物だった
血の鎖と、仲間の心と、残して逝ってしまった人々の心
全ては、永遠から抜け出した一人の少女から・・・


六花と共に降りる影


秀麗が茶州に行ってしまった。
そして一日はまた同じように始まって終わっていく。
茶州の案件が終わってから、朝廷内もまた日常の姿に戻っていった。

しかし、水面下ではそう上手く日常に溶け込んでくれない何かがうごめいていた。


「寒ぅ・・・。流石にちゃんと暖がとってあるとはいえ、外と繋がっている回廊は辛いわ・・・」


はかじかむ手になんとか力を入れて書簡を運んでいた。
一番の近道をするとどうしても寒い吹き抜けの回廊を通らなくてはいけない。
流石に吹雪のときは避けるが、ちょっとの怠け心が の足をここまで運ばせる。
今日は晴れていたがそれでもたっぷりと雪の残る今は外に出ると寒さは中より増した。

こつん、と背後から音がした。

この寒さでこの回廊を通る人などほとんどいない。
は不思議に思い振り返った。そして目を見張った。

「・・・・?
・・・りゅっ・・・龍蓮・・・ッ!?」
「・・・久しいな、 ・・・」


唐突に目の前に現れるのはもう慣れたとして、それでも彼の様子は明らかにおかしかった。
いつも無駄に自信満々の顔をしているのに、今はその覇気がない。瞳もうつろになっている。
更に不思議なことにはかなりまともな格好をしている。そのせいで一瞬誰だか分からなかった。
何か大変なことがあったに違いないことは見て取れた。
はすぐに龍蓮に近寄った。

「・・・なっ、どうしたの?凄い顔色悪いけど・・・」

地面が濡れていないことを確認して、書簡を置く。そして龍蓮の手に触れた。
かなり冷たい。龍蓮自身、自分のことにはほとんど頓着していないようだ。
この寒い中こんな薄着で馬鹿じゃないか、と罵ってやりたかったが龍蓮自身そんなことに構っている暇はなさそうだった。

・・・私は・・・」

時間がないということを悟った は地面に置いた書簡を抱えた。

「その辺の部屋に入っていなさい。
直ぐにこれ届けて戻るから。聞いてる?分かったわね!?」

龍蓮は無言で頷いた。そしてのろのろと歩き出す。
その様子に少し安堵して は走り出した。

丁度昼休みの銅鑼がなったのは幸運だった。

はついでに食堂でたくさんご飯をもらって龍蓮の元へ向かった。

「・・・龍蓮・・・?」

一室を空けてみると龍蓮が隅で膝を曲げて座り、顔を伏せていた。
は手を貸してやり暖炉の傍に龍蓮を座らせた。
そして机と椅子を用意して食事を置いた。

「とりあえず、好きな物食べなさい。
その様子だとここまともに食事もしていないでしょう?」
「・・・・・・・」

龍蓮は無反応だった。 は息を吐いて龍蓮の前に雑炊を差し出した。
これなら食欲がなくても食べやすいだろう。

「ほら、これ食べて。・・・・いいから食べる。
黄尚書付きの雑用官吏をなめんじゃないわよ。
今では仮面をしていてもご飯食べたか、食べてないかくらい分かるようになったんだから・・・」

全く習得して嬉しい能力でもなんでもない。
しかし、体調の悪さを見抜けるのはそれはそれで便利だと思った。
反応のない龍蓮に、 は匙にすくって龍蓮の前に差し出した。

「ほら、口開ける。
ったく病人でもないのになんでこんなことしてあげなくちゃいけないのよ」

龍蓮はやっとのことで反応した。
食べ物を口にしてからやっと意識が覚醒したようだ。

・・・っ」
「ほら、次食べる。
食べないと事を起こす前に倒れるわよ」

の言葉に龍蓮は、はっと完全に意識を取り戻し食事をし始めた。
その様子に は安堵して自分の食事に移る。ちゃんと食べておかないと昼からの仕事が上手くいかない。
それからの龍蓮はしっかり食べお代わりもして、顔色も元に戻ってきた。
そして二人で食後のお茶を飲みながら本題に移った。

「・・・で今回の突然訪ねて理由は何?
それで、うちに一泊したいなんて簡単な物じゃないってことは分かるけど・・・」
「私は茶州にいく」

龍蓮の言葉に は別に驚きもしなかった。今茶州では秀麗達が大変なのだ。
龍蓮が行くというなら、それほど有り難いことはない。
しかし、そんなことをわざわざ宣言に来る必要なんてあるのだろうか?

「それは、助かるわ。
秀麗ちゃんも影月くんも大変そうだから迷惑にならない程度に協力してあげてね」
「・・・あぁ・・・しかし・・・」

龍蓮の内では複雑な二つの心理が働いていた。

「助けたい友は二人いる」
「えぇ、だから秀麗ちゃんと影月くんでしょ?
二人共一緒にいるのだから問題ないんじゃない・・・?」
「違う、今は邪仙教が・・・
いや、問題はそこではない。奇病の方は秀麗が頑張ってくれるだろう。
影月の方も・・・まだ大丈夫だ」

・・・まだ?
意味深な龍蓮の言葉に は眉をひそめた。
自分の知らない何かが茶州で起こっているのだろうか。

龍蓮はを抱きしめた。

「私が危惧しているのは だ・・・・。
私は・・・私は茶州にいかなければいけない・・・
しかし・・・・」
「心配しないでも私は大丈夫よ。
安心して茶州に行ってきて」
「そうも言ってもいられない。
近々縹家当主が動くであろう。
せっかく紫州まで来たのだ・・・・動かないはずもない」

の瞳がその言葉に揺れた。
縹家当主。朝賀の時突然目の前に現れた、母と同じ面影を持つ人物。
も自分の生い立ちには興味があった。彼にもう一度あっても良いと考えている。
しかし、龍蓮の顔を見るとあまりそれはいいことではないらしい。
過去に何があったのだろう。そして彼は私に何を求めていたのだろう。
平穏な日々にその疑問は打ち消されていた。

「知りたいことは王・・・いや霄太師にでも聞け。
そして縹家の当主とは関わってはいけない。何を言われても聞いてはいけない。
・・・分かったな・・・」
「・・・え・・・うん・・・。
でも、あの人そんなに危険な人なの?」
「危険・・・それには答えられない。
最後に選択をするのは自身だ。
しかし、選択を出来ればいいが出来ないときもある。
その時・・・」

そうか。
龍蓮がここを離れることを渋っている理由がやっと分かった。
は笑顔で言った。

「大丈夫、私はこれでも強いわよ。
母もこのときのことを予測してか大分鍛えてくれた。
この前は少し怯んだけど、もう大丈夫。
・・・それにここは朝廷。叫べば人は来てくれるわ」
「・・・そうか・・・」

龍蓮はやっと安堵の表情を見せた。
そして立ち上がって歩き始めた。

「・・・
「何?」
「・・・もし・・・私が大切なものを守ることが出来なかったら・・・
は私を恨むか?」

龍蓮が指す大事なものというのは見当がつかない。
は首を振った。

「守れなかったとき一番貴方が自分自身を恨むでしょ。
それだけで十分よ。
むしろ、努力したのを褒めてあげるわ。
・・・寂しくなったらいつでも戻ってきなさいよ。
・・・話くらいは聞けるわ」
「・・・礼を言う・・・」

龍蓮は を軽く抱きしめた。良く分からないけど も軽く彼の背を叩いた。
彼には珍しく酷く落ち込んでいるように見えるので、少し勇気をつけるために。
そして龍蓮は静かに部屋を出て行った。
はその背中を見送り、自分も食器を片付けに行こうと席を立った。

気分的にやるせない。
自分の周りでいったい何が起こっているのであろうか。
あまり気乗りはしないが霄太師のところへ訪ねなくてはいけない事態になりそうだ。

が扉を開けるとそこには珀明がいた。

「あぁ、珀明・・・」
「孔雀頭・・・きていたのか。
何のようだ・・・?」

龍蓮が出て行くのを見ていたのであろう。
珀明の機嫌が良くないのは、試験のときの龍蓮の印象が最悪だったことから来るだろう。
は苦笑していった。

「秀麗ちゃんたちの手助けに茶州へ行ってくれるんですって。
龍蓮ならきっと上手くやってくれるわ。
これでまた安心ね」
「・・・あいつがそんなこといちいち伝えにきたのか?」
「まぁ・・・あとは色々忠告もつけて・・・
彼も色々忙しいのよ」
「そうか?とてもそうには見えなかったが・・・
しかしあいつが、政に関わるなんて・・・」

と珀明は歩きながら話を進める。

「龍蓮はそんな物に関わろうとしていないわよ。むしろ、政治のことになると逆に避けてくるわね。
ただ・・・秀麗ちゃんと影月くんに何かあるからいくんであって・・・」

・・・・あれ?

「あの二人に何かあったのかっ!?」

いや、あってから行動しても遅いんだけど・・・。
二人は顔を見合わせた。

「・・・そういえば・・・っっ。
何もなければ龍蓮がわざわざ茶州に行くことないんじゃないっ」

そのことをすっかり忘れていた。
龍蓮は奇病を治す手伝いをしにいくわけでもなく、邪仙教の人達の動きを抑えるためにいくわけでもなく・・・。
凡人の力ではどうにもならないから龍蓮は行くのだ。
もし邪仙教関連で秀麗が危険な目に遭おうが、なんとか彼女の力で解決する道が残されているのであれば龍蓮は動かない。

しかも・・・

「龍蓮の話から察するに、危ないのは秀麗ちゃんよりむしろ影月くんのような・・・?」
「は・・・?
何故、小動物が・・・?あまり関係ないだろう」

も珀明と同じ意見だった。
影月に何かあったのだろうか。
別れる時も全くそのようなそぶりはなかったし・・・。
影月の性格からして、真正面から邪仙教にぶつかっていくはずないし。とにかくそんな無茶なことはしないはずだ。

そのとき銅鑼が朝廷内に鳴り響いた。
休憩時間が終わる。

「さて、早くこれ片付けてこないと・・・。
午後からも頑張りましょう、珀明」
「・・・あぁ・・・そうだな・・・」


謎を残したまま、 は戸部へと戻った。
謎の解明にあたるために自分も茶州へ行きたかったが、流石にこの戸部の状態をみていればとても行く気にはなれなかった。



「・・・茈官吏、紙と墨の補充を明日までに頼む」
「はい」

上官に言われ、は在庫の棚を見た。
確かに明日一日は持ちそうだが、その次の日まで持つかどうか微妙なところだ。
仕事の終わりを告げる銅鑼がなり、官吏達が帰っていく。

「黄尚書、今日は早くお帰りになるんですよね?」

は尚書室に入り、まだ筆を動かしている尚書に尋ねた。

「・・・そうだな・・・新案の企画書を今書いておこうと思うのだが・・・」
「まぁそれくらいならいいですかね。
そろそろ屋敷の人達にも顔を見せた方がいいですよ。中々帰ってこないから心配なさっておられます」
「あぁ・・・。
悪いが、府庫に行って資料を借りてきてくれ。
そこにある本の色違いのものを・・・」
「わかりました。直ぐに」

は一礼して退出しようとした。

「・・・・・・」
「はい?」
「何かあったのか?」
「・・・え・・・
・・・あぁ、少し茶州のことが気になりまして・・・
でもあの人達のことですから大丈夫ですけど・・・」
「・・・そうか・・・」

鳳珠は違和感が拭い去れないまま、 を返した。
確かに茶州も危惧しなくてはいけないところだが・・・。
向こうには優秀な官吏がたくさんいるわけだし、なにより信頼するところの悠舜がいる。
最終的にはちゃんとまとまるだろう。

茶州の他にもまだ危惧しなくてはいけないような気がする。これはまだ勘でしかないのだが・・・。

「鳳珠〜、まだ帰らないのですか?」
「・・・なんでそう、私を帰らたがらせるんだ・・・。
そんなに私は邪魔か?」

とすれ違いに柚梨が入ってきた。そして戸口一番 と全く同じことを言い始めた。

「邪魔ではないですけど、このまま朝廷に泊まりっぱなしでは家人の人達に悪いじゃないですかー。
一応そんな仮面顔ですが、心配はしてくれていると思いますよ」

流石にここまで同じだと、鳳珠は反論する気が失せてきた。
が柚梨に似てきたのか、はたまた自分がそう言わせる行動をしてきているのか分からないが、自分は自然と柚梨が二人いる状態を作りだしてしまったらしい。
正直これでは、自分の思い通りに仕事をすることが難しくなるのは見て取れた。
かといって柚梨も も、この戸部にとっては貴重な人材であって他に回すわけにもいかないし、自分の傍にいないと都合悪いことが多い。

「・・・分かった。この企画書を書き終えたら帰る。それで文句はないだろう」
「何そんな投げやりになっているんですか?」
「別に」

明らかに機嫌が悪くなった上司を見て柚梨は首を傾げた。
別に今の返答は日常茶飯事のことで彼の機嫌を損ねるものではないだろう。
むしろいちいちこんなので機嫌を損ねてもらうとそれこそ戸部は潰れる。
まぁ帰って休んでくれるならそれに越したことはない。と柚梨は尚書室から退出した。

「えーっと、これを鳳珠様のところへ運んだら次は墨と紙の補充かぁ・・・。
外の回廊寒いからなぁ・・・ちょっときついけど多めに運ぼう・・・」

独り言を言いながら誰もいない廊下をは歩いていた。
暗くなった廊下には明かりが灯されぽつぽつと光を放っている。
ほとんどくらいに近いが、蝋燭が道をしるしてくれるから歩くだけなら支障ない。
府庫も離れにあるので少し外を通っていかなければいけない。
は少し鬱になりながら歩みを進めた。

外は雪がちらついていた。
明かりに照らされそれは幻想的な風景を作りだす。
は少しその風景に目を奪われた。
そして一瞬雪でない紅いものが目の前を過ぎた。

「・・・・・?」
「久しぶりですね・・・闇姫」

その冷ややかな声に は肩を震わせた。
鳳珠から頼まれていた本もそのまま落としていた。
体が芯から冷えていくような感覚に陥る。

・・・大丈夫・・・。

は、深く呼吸をして自分を落ち着けた。

・・・大丈夫だと、約束した。

意を決して振り返るとそこには、以前と変わらぬ冷たい笑みをたたえた青年がいた。


「・・・あの時はとんだ邪魔が入ってしまった・・・が、藍龍蓮ももう茶州の方へいったみたいだし・・・
そうそう、自己紹介が遅れた。私は縹璃桜、ご存知だと思うが縹家の当主だ」
「・・・それはご丁寧にどうも。
貴方が何をお考えかは分からないが、私もあのときの私ではないです。
流石にその雰囲気に慣れることはまだ出来そうにはありませんが・・・」
「・・・茶州か・・・上手くいけばそろそろ決着がつきそうだけど・・・」

その言葉には瞠目した。
全く思いもしなかった。しかし、考えてみれば色々辻褄が合う。
秀麗に・・・春姫に・・・影月はどうか分からないが、邪仙教も何もかも。

「・・・ちょっ・・・なんか時期が重なったと思ったら・・・
まさか茶州のあの件・・・貴方が・・・ッ!!」

璃桜は の言葉に微笑した。


   

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析