沈黙がその場に下りた。
は早くなる心臓を落ち着け、璃桜を見た。

「・・・それは・・・肯定ととっていいんですか・・・・?」
「まぁ、・・・半分正解です。
本当はこんなに事を荒げるつもりはなかったのですが、姉に横槍を入れられましてね・・・
私の目的が達成される確率は大分下がりました・・・最初から期待してないので別にいいですけど・・・

でも、あったら役に立つ物だったのですが・・・」

全く話の意図がつかめない。
やはり彼との対峙する前に、霄太師あたりからちゃんと話を聞いておくべきだった、と は後悔した。
暇があったので今夜にでも伺おうと思っていたのに・・・
とりあえず、彼が茶州の一件に少しでも関わっていることと彼に姉がいることが分かった。

「まぁそれは良いとしてせっかく薔薇姫も見つけました。
そして闇姫も。
・・・待っているだけも飽きたので、闇姫・・・。
そろそろあるべき場所へ帰りましょう・・・」

確かに彼の笑みには母に通じるものがある。
自分と血族ということは直感的に感じた。同じ血のつながりでも劉輝や静蘭とは全然違う。
もっと濃くて、強いもの。

しかし・・・それが自惚れと分かっていても、その手を取ることは出来なかった。
龍蓮との約束もある。
それ以上に、ここが自分の居場所でそして劉輝や静蘭が本当の家族だと思っていたい。
彼らと違うなんて思いたくなかった。

「断ります」
「何故・・・?ここに貴方の居場所はない」
「・・・なくてもっ・・・なくても・・・私はここにいたい。
必要とされてなくてもここにいたいのっ!!
・・・もう、あんな寂しい生活には戻れない・・・」

内朝を追い出されたあの日から母と二人で暮らしていた。
そして母が死んでからは一人で暮らしていた。
そのときは別に寂しさなど感じなかった。

しかし、秀麗に出会い、鳳珠に出会い、朝廷で働いて・・・
大切なものに囲まれて生きるということはどんなに素晴らしいことか知ってしまった。

「・・・自分でも分かっているわよ、大分弱くなったな・・・って。
でももうそれにもかなり吹っ切れているわよ。
朝賀のときこれでもかっていうほど思い知ったからね」

我ながら情けないほど叫んでいる自覚はある。
でも、たまにこのように本音を叫ぶ時もあってもいいと思う。
これに誰か気づいて来てくれるのならそれはそれで良い。
は気持ちを落ち着け、腰に馳せてある短剣を抜いた。

「無理矢理連れていこうとするなら、相手をするわ・・・」
「・・・私がどれだけの力を持っているか知らないで挑むか?
流石にあの娘はそこまで愚かではなかっただろう・・・?」

あの娘・・・?

「あの娘・・・ってまさか・・・」
「お前の母親だ。
確かここでは『風雅』と名乗っていたようだが・・・」

は地を蹴った。
そして、短剣を凪ぐ。
しかし、それは簡単によけられる。

「・・・母上に他の名があったの・・・?」
「闇姫に名などない・・・。闇姫は闇姫だ」
「そうやって、物扱いしていたから母上だって逃げたんじゃないですか?」

璃桜はふと顎に手を当て考えた。
ふむ、一理あるかもしれない。
しかし、あの場から逃げたのは彼女の意識ではなく縹英姫の言葉のせいだ。
そこまで考えて反射的に身をかがめる。
の短剣が顔の前まで迫ってきていたのだ。

「・・・他人の隙を見て攻撃するのはあまり良い方法だとは思わないけど」
「流石にそうでもしないと貴方を倒せそうにもないのでね」

すっ、と璃桜が の前から消えた。

「いつ私が敵になった?」

いつの間にか背後から声が聞こえ、反射的にそこから離れる。
しかし後ろにはもう逃げ場がなかった。
は内心舌打ちする。

「・・・さぁ・・・?
でもこのままだと拉致されそうな気がしたので・・・・」
「いい心がけではあると思うけどね」

青年はすっと の手を取った。
力を入れたがびくともしない。 はわずかな焦りを覚えた。

「茶州の一件が終わるまでまだ時間がある。
その前に一緒に縹家に戻ろうか」
「・・・嫌だと言っています
私には・・・まだ分からないことが多すぎる。
だから、せめて過去と自分が置かれている立場を理解してから答えを出すのも遅くはないはず・・・」
「全てを私が教えてあげるよ」
「貴方の口からだけでは駄目なんです。
・・・確かに・・・ただ一方からだけ話を聞くのも駄目だと思いますが・・・」
「・・・誰に唆されたか知らないけど・・・
ずいぶんと君は変わってしまったね・・・」

ため息をつき璃桜は呟く。
徐々に頭が働かなくなってきた。
まずい・・・本能だけがそう強く告げていた。また以前の二の舞になってしまう。
しかし、今回龍蓮もいないし、自分では動けそうにもないし・・・
龍蓮には偉そうなことを言ってしまったが、これは確かに相手が悪い・・・
そもそも異能の血族なんかにかなうはずが・・・・
最後の方は大分投げやりになってきた。

璃桜はふっと笑みを漏らす。

・・・・やっと捕まえた。


その時、雪と共にふわりと影が舞い降りた。
その姿に二人は絶句した。
ありえない・・・と は思った。
しかし、視界に移る人物はかなりしっかりとした存在があって、自分を後ろから抱きしめる力も感じられて・・・。
目が合った瞬間、ふわりと笑みが返された。
以前見たよりかかなり邪気がない・・・と思う。
璃桜に手を取られたまま、 は自分を後ろから抱きしめている人物に話しかけた。

「・・・えと・・・朔洵?」
「うん」

綺麗な巻き髪も柔らかい雰囲気も以前と変わらない。
久しぶりに見たその姿に安堵した。

「・・・生きてたの?」
「君ね・・・生きろと言ったのはどの口だい?
せっかく約束通り紫州の朝廷まで足を運んであげたのに、こんな危険な状態から助けてあげたのに・・・」
「あー、そうねありがとう」

紫州の朝廷には来い、といった気もしないでもないがそれはあくまで『官吏になって』だったような気がする、と は頭の片隅で思った。
の意識が段々はっきりしてきたのを見た朔洵は標的を変えた。

「・・・さて、その手離してもらえるかい?」
「何故・・・というか貴方は誰でしょう?」
「そうだね・・・ に命を助けられた者・・・かなぁ・・・。
実際なんで生きているのか自分でも未だに良く分からないんだけどね」
を守るために永らえた命を使うのですか?」
「・・・さぁ・・・?
まぁそういう生き方も一興かな・・・。そうしてみてもいいけど」

以前よりは、まだましにはなっているようだが、そのどっちつかずの答えに脱力感を覚える。
なんだろう・・・別の方向でダメダメ?

「・・・とにかく、彼女は私が気に入っているからその手は離してもらおうか」

璃桜相手に笑みまでたたえてしまう朔洵に少し感心しながら は少し思った。

「数十年間闇姫不在の状態でいるんだ。そろそろ返してもらわないとこちらも困るんですよ。
そろそろ姉も動き出すだろうし、もっと手荒に捕まえられるよりはこう紳士的に扱われた方が闇姫だっていいでしょう?」
「・・・今のどこが紳士的なのか説明していただきたいのですが・・・」
「ちょっと話そらさないで欲しいな。こっちだってあんたに言いたいことあるし。
『千夜』って名前を勝手に使っておいてそれはないんじゃないかなぁ。
全く色々誤解を受けてこちらとて不愉快だよ」
「・・・あんなことしておいて今更不愉快もくそもあったもんじゃないわよ、朔洵。
今回の件、あんたがもう少し意欲のある人生送っていたら完璧貴方のせいになってたわよ」
「あぁ、それなら良かった。
今になって秀麗に嫌われるのも最悪だからねぇ・・・」
「何喜んでんのよ。あんたの印象この事件がなくても最悪よ」
「とにかく闇姫は・・・」

終わりのない、言い合いが続くように思われた。
反応したのは朔洵と璃桜だった。
次の瞬間ふっと同時に の周りから消えた。

「・・・・何?」

急に支えがなくなり、 は地面にへたり込んだ。
何故二人が急に消えたのか分からない。

「・・・ か・・・っ!?」

久しぶりに聞く兄の声は懐かしかった。
はすぐにそちらの方向へ向く。
足音はこちらへ近づいてきて、そして兄の姿が視界に入る

「・・・何こんな寒いところで座り込んでいるのか?
働きすぎか・・・・?
・・・ちょっと・・・いやかなり勇気はいるが黄尚書に直談した方が・・・」
「・・・いえ・・・別に・・・」

ひょっこり現れた劉輝に は手を貸してもらいたちあがって、服についた汚れをはらった。
そういえば、彼は自分の過去のことを知っているのであろうか。

「あの・・・」

は周囲に誰もいないことを確認して劉輝に言った。

「霄太師と話がしたいのですが、今日は彼暇ですか?」
「霄太師?あんなクソジジイいつでも暇だろ。
どうせ朝議に暇つぶしに出る以外ほとんど仕事していないし・・・」

劉輝が渋い顔を見せたところからまた騙されたんだな・・・と は悟った。

「霄太師になんか用か・・・?」
「まぁ・・・母の話を少し伺おうと思いまして・・・。
何分謎を多く残して死んでいったので、母の話を出されると答え辛いんですよね・・・」

劉輝は目を細めた。
の母はほとんど公になっておらずその存在を知るものはほとんどいない。
もしその存在を知っていて話に出されるとしたら・・・・。
劉輝もあまり詳しくは知らないが、璃桜に会ってから色々縹家に関して勉強してみた。
そうしたら、なんと の母が縹家出身者だった。

「・・・まさか・・・璃桜殿・・・にあったのか?」
「えぇ、ほんのさっき・・・」

劉輝は苦虫を噛み潰した顔をした。
ちょっとお茶でも・・・・なんていっている場合ではないかもしれない。
静蘭があれほどまでに焦っていたのかなんとなく分かった。

「なぁ、 ・・・。
出来れば余も霄太師に話が聞きたいのだが・・・一緒に駄目か?」
「お願いします。
では今日は仕事早く終わるので、また後ほど。
兄上は霄太師に話と時間つけておいてください」
「分かった」

はすぐに劉輝と別れた。足が次第に速くなる。
紙と墨の補給が終わればすぐに向かわなくては・・・


尚書室に戻ると鳳珠が暇をもてあまして本を読んでいた。

「・・・遅かったな」
「・・・すいません・・・。
少しとりこんでいたもので・・・。
あっ、今日ちょっと用事が出来ましたので朝廷に泊まりますから」

先ほどとは明らかに様子の違う に鳳珠は内心首を傾げた。

・・・、何かあったら言え」
「・・・え・・・?」
「・・・一応・・・私はお前の後見人だ」

何も言わなくても分かってくれるのだろうか。
はふわりと微笑んだ。

「ご心配おかけしてすいません。
何かあったら是非頼らせていただきます」
「・・・あぁ」

は一礼してそのまま去っていった。
紙や墨の補給は明日でもいいだろう。とにかく今は自分のことだ。
はその足で王の執務室へ向かった。
丁度劉輝も途中で霄太師と会い、一緒に内朝へ向かっていた。

「・・・あ、二人共!!」

丁度すれ違いになり、 は二人の元に駆け寄った。
幸い周りには誰もいない。三人は足早に廊下を歩き、ある一室に入った。


「・・・はぁ・・・全くあの娘も大事なことを話さず逝ってしまいおって・・・」

椅子に座るなり霄太師は早速愚痴り始めた。
劉輝と は対峙するように反対側の席に座り聞く体勢に入る。
霄太師は少し迷ったが、腹をくくって話すことにした。
そもそも の出生についての一部始終を知っているのは今となっては自分くらいしかいない。
全く、子育てくらいちゃんとしてから逝ってくれ、と内心先王と元闇姫を恨んだ。

「・・・さて、どこから話したらいものかの・・・。
縹家の内情もほとんど知らないんじゃろな・・・」
「知りませんね・・・。そもそも縹家の存在なんて最近知りましたよ。
まさか話に聞く英姫殿が異能の一族ってことも・・・」
「余もその辺の詳しいことを教えて欲しいな。
王としてやはり知っておかなければいけないと思う」

二人の目に霄太師は頷いた。
まぁそれなりの覚悟はあるのだろう。
・・・しかし・・・。
話す側も面倒で二人同時に聞かせることにしてしまったが、本来は別々に話した方がいい話である。

「・・・話す前に、一つだけ言う。
内容としては両人の関係が少し複雑なものになるだろう、それを覚悟してくだされ」

『・・・・。』

少し沈黙が降りた。
しかし、二人は顔を見合わせて頷いた。大丈夫。

「その時はそのときで考えます。
今時間は結構ありますし・・・」
「・・・そうか・・・
ではまず縹家のことからじゃな・・・」

異能の血を受け継ぐ、神祇の血族。
王家と対峙しており、王家を裏で操っていた時も一時期はあった。
まさに敵同士というわけである。

「・・・霄太師、『闇姫』とはどういう存在なのですか?」
「・・・早速痛いところをつくんじゃな、
それが一番大切なところなんじゃが・・・。
完結に言うと、”王家を滅ぼす存在”。
闇姫がいる時代が縹家暗躍の時代と呼ばれている」

劉輝と はその言葉で沈黙した。
璃桜が自分の母も闇姫だったといった。
そういえば、その時代は先王が国家を統率するため大きな戦が起こっていた。
そして、”風の狼”などという暗殺集団も縹家との死闘を繰り返していたのだという。
それが、闇姫の存在のせいだとしたら・・・・。

「・・・霄太師・・・完結に言いますと、今の私が闇姫でこの王朝に影響を与える人物であると?」
「まぁそうなるじゃろうな。
不思議なことに風雅をここに迎えた時には縹家の影もなかったし、 が今こう生きていても朝廷に影響はない。
・・・心配することなかろう。ここにいる限り被害はない・・・」

龍蓮が言っていたことはこのことだったのかもしれない。
は納得した。

「・・・そうか・・・。
では今 の周りに縹璃桜が出没しているという状況はかなりよろしくないな・・・」

劉輝が深刻な顔で言った。 はその言葉に頷いた。
霄太師はそれは初耳であったが、璃桜の姿を見たときからそれくらいの予想はしていたので別段驚くことでもなかった。

の周りに色々つけると の方が嫌がるし、これは困ったな」

昔から対暗殺者対策として周囲の気配に敏感になってしまった では、警護をつけるといってもかなりの手練でないと気になってしょうがないだろう。
”風の狼”も解散したし、劉輝自身そのような集団はいらないと思っていたのでちょっと困ったことになった。
璃桜相手では珠翠は無理だし・・・・。

「・・・ってか・・・
そもそもどうして敵同士のしかも王と縹家の闇姫が出会う機会などあったのだ?
別に闇姫は戦に出ていたわけでもあるまい・・・」

その問いに霄太師は苦笑した。
まぁ、二人が出会ったのは偶然というか先王の物好きというところもあったのだが、その根本的な原因を作ったのは何を隠そう霄太師の天敵、縹英姫である。
そのことを思い出し、霄太師は話そうかどうか非常に迷った。
正直、英姫の名前すら思い出したくない。

「・・・そういえば、英姫殿がいなければ今頃貴方はいなかった、と母から聞いたのですが・・・」
「・・・分かった・・・。話そう・・・」

それは、縹英姫のある機転から始まった。

   

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