風は終わりと始まりとを告げる



季節もそろそろ春になりかけている。
朝廷にある桜の気ももう四分咲きであと数日後には見ごろのようだ。

「・・・鳳珠様、桜もそろそろ見頃ですしお花見なんていかがでしょう?」

久しぶりにたっぷりと休暇をとったは鳳珠の屋敷でのんびりとした時間を過ごしていた。
周囲に書簡や書類がが無い室でお茶を楽しんだのは、ここ一ヶ月は無かったような気がする。
鳳珠は外を見てにこにこと微笑んでいるを見た。
この庭が見える室は彼女が来るまでほとんど使われていなかった室だ。
休みになるとここでお茶を飲み、庭を眺めて季節感を味わうというのが最近の休日の過ごし方である。

「・・・花見か・・・」
「はい。
せっかく咲いたのに見てもらえないのは可哀想じゃないですか」

・・・そういうものなのか?
鳳珠はあまり娯楽には興味がないので特に花見をしたいとは思わない。
ただ、酒を飲みたい時にいい風景があればそれに越したことは無い。
自然に求めるのはそれくらいだ。
そんな鳳珠の心を察することなくは続けた。

「朝廷で花見などいかがです?
戸部の方々と一緒に・・・」
「・・・・何故連中達と飲まねばいかんのだ」
「別に・・・なんなら同期の方々とでもいいんじゃないですか?
悠舜さんも帰ってきますし・・・」
「更に断る」

やはり『悪夢の国試組』と呼ばれているだけあり、それぞれの性格が個性的過ぎて馬の合うものが中々いないらしい。
なら王も交えて邵可にゆかりのある面々で花見も出来るのだが、やはりこもり気味の鳳珠も是非参加させたい。

「とりあえず、柚梨さんにも言ってみますね」

鳳珠はあまりいい顔をしなかったがしぶしぶ頷いた。
柚梨にかかれば現実のものとなるのは時間の問題だろう。
・・・そして、朝廷なんかで花見をやったら・・・。

そこから予想されることを考え鳳珠は嘆息した。
・・・別に・・・いいか・・・。
は庭に出て、桜の枝を取りほころびかけているのをみた。
もうすぐ咲くのか・・・・。
考えるだけでもは楽しみでならなかった。

「お花見楽しみですね」
「・・・まぁ・・・そうだな」

庭に吹く風はもう春の暖かさを含んでいた。


「花見ー!!」
「本当ですか、景侍郎っ!?」
「えぇ、朝廷の庭で花見をすることの許可がおりましたから〜
準備は黄尚書に任せておきましょう。
では、皆さん当日修羅場にならないように、今から頑張りましょうね」

春の事目が近づいているということで朝廷の方も慌しかった。
戸部にも徐々に忙しさの陰が見え始めている。
これができなければお花見中止!
それに花だって長くはまってくれない。この十日が勝負だと見える。

『戸部ファイオー!!』

最近流行となりつつある掛け声とともに戸部は始動し始めた。


あの忙しい戸部が花見をする、という噂は瞬く間に朝廷内に広がった。
そしてそんな花見という大きな行事を祭り好きの官吏達が見逃さないわけがなかった。
飛翔を初め、酒好きの官吏達が飛びつかないわけが無い。
当日、明らかに招待されていない者達がその辺に陣取ったりしていて花見は大いに賑やかなものになった。

鳳珠は杯を持ったまま見事に咲き誇る桜を眺めていた。
しかし、その仮面の下の表情はあまり良いものではなく・・・

「・・・結局・・・こうなるのか・・・」

仮面の下でひそかに落ち込んでいる鳳珠に悠舜が苦笑した。

「まぁいいじゃないですか、鳳珠。
お招きありがとうございます」
「・・・ああ・・・悠舜はいい。
問題なのは、なんでお前達までいるんだ!黎深、飛翔っ!!」
「私が来てやっただけ感謝しろ」

何故か呼ばれてもない黎深がそう言い、

「あぁ?花見といえば俺がいないと始まらないだろうが」

意味不明な解釈をしている飛翔がいた。
そのずうずうしさに鳳珠は今すぐにでも飛翔の飲んでいる酒と茅炎白酒を交換したい衝動に駆られる。

「・・・これでは同窓会みたいではないか・・・」
「あれ、同窓会じゃないんですか?」
「・・・この面子で酒を飲むとあまり良いことが無いからな・・・」

悠舜は苦笑した。確かに・・。
この面子が揃えば、酒が無くても何か起こる。

「・・・鳳珠、仮面を外さないのか?
・・・きっと桜に映えるぞ」
「黎深、この場を死屍累々の山にする気か」
「・・・別に・・・大丈夫じゃない?」
「・・・鳳珠様、楽しそうですねぇ・・・。
皆さんもお酒どうぞ」

色々なところを周ってきていたらしいがこちらにきた。

「・・・、秀麗達といたのでは・・・?」

その言葉に黎深がピクリと動いた。
は鳳珠の他三人のお酌をし、鳳珠の隣に座った。

「・・・あぁ・・・それがお酒の中に茅炎白酒が入っていたみたいで・・・。
珀明なんて普通の半分飲んで限界だったですね、全く影月くんにあれだけ言っておきながら情けない・・・。
流石の秀麗ちゃんもこれ以上は危ないと、酔い覚ましに散歩に行きました」

ちなみに宴会を長引かせたくないため鳳珠が用意したのはほぼ高濃度酒。
官吏になる者のほとんどが上戸らしく、高濃度酒が丁度彼らにあっているのだ。
よって珀明が弱いのでなく周りが強すぎるだけなのである。

「・・・秀麗・・・」

黎深も少し酔いが回ってきたのかいつもより積極的である。
しかし、鳳珠が止めた。

「行くなよ、黎深。
酔った勢いで『いつぞやの夏に会った変なおじさん』とか言われたらどうするんだ。
また引きこもるつもりか」
「秀麗は、そんなこと言わんっ!仮面にだけは言われたかないわ!」
「・・・仮面だと・・・」

鳳珠が仮面の紐に手をかけた。
鳳珠自身も酔いが回ってきたのか理性の壁が崩れてきている。

「・・・おい、奇人・・・ちょっと待て・・・」
「鳳珠、貴方さっき自分で何言ったか覚えてます?」

鳳珠と黎深の小言の言い合いは日常茶飯事で慣れていたのだが、仮面を外すとなればかなりヤバい。
鳳珠も黎深も酒は強いはずなのに何故・・・?
は鳳珠達に酌んだ酒を見てみた。

・・・もしかして・・・。

はその辺のお猪口で中身の酒を確かめてみる。
これ・・・茅炎白酒・・・っっ。。
飛翔は自前の酒があるから普段と変わらないがが酌んだのは茅炎白酒。
・・・の割に、悠舜は意外にも平気な顔をしている。
この速度で飲んでいったら危ないな・・・と思い、飛翔が鳳珠を止めている隙にはこっそり中身を変えることにした。
飛翔なら少しくらい強くても大丈夫であろう。


「・・・?」
「あっ、絳攸様、藍将軍に・・・主上?
どうしたんですか?」

絳攸が『悪夢の国試組』の騒ぎようを見て苦笑している。
劉輝と楸瑛は意外そうな顔をした。
酒のせいもあるが、あの人達があれだけはっちゃけているのを見るのは初めてだ。

「・・・その・・・黎深様の様子を見に来たのだが・・・。
鄭宰相もいることだし・・・。任せてもいいかな・・・」
「まぁなんだかんだいってあの四人ちゃんとまとまってますから安心してください。
あっ、まだお酒ありますし、どうぞ。」

一応黎深の様子を見に来たのだが、一応止め役もいるようで少し安堵した。
の言葉に甘えて絳攸達も加わることにした。
花見にはかなりの官吏達が参加しているらしく、今更二人加わっても差は無い。
楸瑛はその辺にあった杯と酒瓶を寄せてきてそれぞれに酒を酌んだ。

「・・・ではこの満開の桜に乾杯」
「乾杯ー。。」
「乾杯?」
「・・・・。」

四人はぐびっと飲み干した。その瞬間妬けるような強いものを感じた。
はさっきからちびちび慣らしていっていたが他の三人は違う。飲み干した瞬間むせ始めた。

「・・・なっ・・・なんて恐ろしいものを用意しているのだ・・・。
全く主催者は・・・・主催者は・・・・
えっと・・・黄尚書?」

劉輝が喉を押さえながら言った。
鳳珠が天敵な劉輝にとって、文句をあまり強く言えなかった。
何故このような宴会の席に飲みすぎると死ぬかもしれない茅炎白酒なんか用意しているのだ。
楸瑛は上司に付き合っているため何とか堪えたが、絳攸は無理だったっぽい。
喉を押さえたまま動かない。しばらくは何も出来ないか、寝るかだ。

「・・・あぁ、不特定多数の人が参加して、料理とか酒とか足りなくなった時の最終手段で用意されたっぽいですよ。
ここにあるお酒はほとんどが高濃度酒で外見と中身が違いますから。気をつけないと・・・」

そういえば、先ほどまで騒いでいた官吏達が徐々に没落していっている。
時間が経てば経つほど騒ぐ人数は減っていった。

「花見は騒ぐためにあらず。が黄尚書的花見の仕方ですから・・・。
・・・多分・・・周りが邪魔なんですね」

その台詞を聞いて劉輝と楸瑛は苦笑した。

「・・・おっ、恐るべし・・・」
「・・・その鬼畜さ、敵に回せませんね・・・」
「まぁいつもの面子が集まれば酒が無くても騒げるみたいですけどね〜・・・
・・・・あ・・・・」

鳳珠の仮面が取れている。
は本能的にヤバい・・・と感じた。

「兄上、藍将軍。もう一杯どうですか?」

茅炎白酒を少しずつ飲み始めていたの思考回路に酔いが回ってきたらしい。
一度に二つのことを考えられることが出来なくなっている。
とりあえず、鳳珠から目を離させるため、は劉輝と楸瑛の杯に酒を酌んだ。
劉輝と楸瑛もじわじわと茅炎白酒が聞いてきてもう細かい判断もつかなくなってきていた。
いくら酒に強いとはいえ、茅炎白酒は人を殺せるほど強い酒なのである。
ちなみに絳攸はというと既に夢と現実の狭間をいったりきたりしていた。

「悪いな、
「では、ありがたく頂きます」

グビッと思い切り飲んだ二人は二杯目で絳攸と同じ状態に陥った。
グッジョブ茅炎白酒。
この頃になるとほとんど残っている官吏達はいなかった。
あとは騒がせておけば良いだろう。

「・・・、来い」

鳳珠に呼ばれ振り返った、は驚いた。
人前で普通に仮面を外して平気そうに座っている彼の姿があったからだ。
しかも、酒が入って気分がよくなっているのか表情には常ににこやかである。
個人的には目の保養でいいのだが、やはりまだ脱落していない官吏もいるわけで、その官吏のためにも仮面は必要だと思う。
はその辺に落ちていた仮面を拾って鳳珠の元へ向かう。

「・・・鳳珠様・・・その・・・大丈夫ですか?」
「・・・あぁ、心配することは無い」

鳳珠がすっとの頬を撫でた。
鳳珠と目が合い、はすぐさま視線をそらした。あの素顔を間近で見ることは未だに難しい。
しかも今は、始終素敵な笑みをたたえているからなおさらだ。
その鳳珠の行動にピクリと飛翔の手が反応した。
それを横目で見た鳳珠は、面白そうに目を細めた。

「・・・・・・・・」
「・・・はい?」

頬に触れた手をそのまま顎に持っていき、鳳珠は軽くに口付けした。

「・・・・ほっ・・・鳳珠様っ!?」

の抵抗をやんわりと交わされ、は同期の三人を見た。

「どうだ、羨ましいだろう」
「な・・・・っ」
「別に私は凛がいますから、いいですけどね。。
はぁ・・・呼んでこれば良かったですねぇ・・・。散々自慢できたのに・・・」
の方が可愛い」
「凛の方が綺麗です」

はいつの間にか鳳珠の腕の中に納まり、収集不可能の鳳珠と悠舜の自慢を聞く羽目になった。
悠舜は平気そうに見えたがひそかに酔っていたらしい。鳳珠もおそらく茅炎白酒のせいで酔いが加速して収集不可能な域にまでいったのだろう。
黎深は黎深で一人兄家族の妄想状態に突入し、飛翔は唖然とその様子を見ている。
なんでこんな状態になったのか自身良く分からなくなってきた。
そしてしばらく時間が経ったころには居心地の良さと、酔いのせいでそのまま意識を手放した。

「・・・見せてくれるじゃないですか・・・黄尚書・・・」

ひそかに鳳珠と酒を飲もうと機会をうかがっていた玉は苦笑した。
やはりあのさりげなさといい、あの美貌の使い方といい、彼には欠点が無い。
今回の布告は主に上司に向けられたものだと思うが玉はしっかり受け取った。
最近に贈られて来る簪の量は並ではない。
鳳珠ならすぐに気づくはずだ。

「・・・私も負けていられませんねぇ・・・。
今回ばかりは・・・反則だと思いますが」

一方玉とは別の角度で目撃した人物がいた。

「・・・黄尚書もあんな酔い方をするんですか・・・
意外というかなんというか・・・」

茅炎白酒の酔いから少し現実に戻った楸瑛がたまたま現場を目撃していた。
髪で素顔は見れなかったが、それでも雰囲気だけは綺麗なもので・・・。
・・・やはり負けるな、と思ってしまった。

「・・・一応・・・私も宣戦布告者の中に入っていますからね・・・。
少し・・・喧嘩を買ってみるのもいいかもしれません・・・」

結局、官吏全員がその場に突っ伏したのが夕方頃。
そして次の日には武官達により叩き起こされることとなる。
ちなみにその日の朝廷の機能は二日酔いと、寒空の下での睡眠ということで体調を崩した者が続出。
ほぼ麻痺状態であった。

「・・・各部署からの書類おいておきます」
「あぁ、朝廷全体をみてどうなっている?」
「・・・とりあえず、上官の方々は結構余裕そうですがその他の方達が・・・」
「チッ・・・使えない奴らめ・・・。
・・・そうだ・・・昨日のことなんだが・・・・」

は、身を固くした。昨日って・・・最後よく覚えてないけど・・・。

「あの・・・私寝ちゃいましたよね。うっかり・・・・」
「・・・まぁ気がついた時には何故か私の元で寝ていたな・・・。
一体何をしていたんだ?
というか・・・から酌をしてもらった後くらいから記憶がないのだが・・・。
その・・・私はなにか妙なことをしていなかったか・・・?」
「・・・・は?」

の予想以上に鳳珠の記憶は抜けていた。
一度黎深から鳳珠は酒癖が悪いから気をつけた方が良い、と聞いていたが・・・。

「私は一定基準以上酒が入ると、どうも別の人格が出るらしく、しかもその時の記憶がなくなるのだ。
黎深ですら文句を言っているようだから、相当な悪さなんだな・・・。
なにか、の気を悪くさせることをしていなければいいのだが・・・」
「・・・・・。」

別の人格・・・そうか・・・だから仮面を・・・。
は頭を抱えた。もう少しそのことを早く言ってくれ。
昨日のことを思い出すが、そんなこと鳳珠の前で口に出せるはずも無く・・・。

「・・・いえ・・・私もよく覚えていなくて・・・。
では、失礼します・・・」

の様子を見て鳳珠は大きな息をついた。
・・・絶対何かしている。
鳳珠は苦笑した。
あまり、大事にならなければ良いが・・・。

風に舞う桜は、新たな戦の始まりを告げた。

   

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析