兄達からの宣戦布告


最近妹の周りに妙な輩がうろついているらしい。
彩雲国国王、紫劉輝は真剣に悩んでいた。
会う度増えている意味深な簪。
会話の中に出て来る色んな人々。
・・・・正直劉輝はかなり不愉快だった。
秀麗だったらまだ我慢出来たかもしれない。
でも、何故かだけはほっておけなかった。
昔からかなり溺愛していたからだろうか・・・・。
が他の男と話しているのですらいらついてくる。
邪魔したいが自分は国王。
親しくしすぎて悪い噂がたってしまっては厄介だ。
劉輝はさんざん思い悩んだ挙句重い腰をあげた。
『ちょっと出る。』と二人の側近に言い残してふらりと執務室を出て行った。
劉輝のまとう雰囲気があまりにも尋常ではないため、側近の二人も声をかけようにもかけられなかった。

「・・・なんか凄く悩んでいるみたいですけど・・・何なんだろうね・・・」

劉輝が室を出て行くのを見送って楸瑛が言った。
絳攸は気にせず書簡に目を通している。

「はっ、どうせくだらん事だろう。ほっておけ」
「・・・そうだと思うけど・・・。
なんかほっておいたら嫌な予感がする・・・」

楸瑛は遠い目をしてまた山積みになった書簡に目を通した。

劉輝はこっそり府庫に行き邵可を探した。
邵可は埃が被っている府庫の一番奥にいた。

「おや、いかがされましたか?劉輝様・・・お茶なら今・・・」
「いや・・・お茶はいい。それより邵可・・・少し頼みたい事があるのだか」

劉輝の真剣な瞳に邵可も少し身を引き締めた。
劉輝は周囲を確認してボソリと呟いた。

「・・・兄・・・いや静蘭に少し相談したい事があるのだが・・・。
内密に余の所に来てくれるように言ってくれないか・・・」
「・・・はぁ・・・別によろしいですが・・・。
何か・・・・」
「大事な事なのだっ。くれぐれもよろしく」
「・・・はぁ・・・」

王家の滅亡がかかっている!と言わんばかりの劉輝の形相に邵可も何があったかまでは聞けずに終わってしまった。

邵可から言伝を聞いた静蘭は劉輝の呼び出しに首を傾げた。
劉輝はそれなりに賢いし、みだりに公私混同はしない。
直接自分に何の用だろう・・・。
静蘭が考えていると奥から一人の少女がこちらにやってきた。
後宮の女官とはまた違う雰囲気がある。

「静蘭殿」

静蘭は立ち上がって会釈した。

「いかがなさいましたか?殿」

久しぶりに会った・・・というか話をした兄には少し照れて俯いた。

「いえ・・・これといって用はないのですが・・・
・・・・えっと久しぶりにお話したいかな・・・と思いまして・・・」

静蘭は滅多に見せない笑顔で微笑んだ。

「いいですよ。暇ですし」

静蘭の休憩時間はもう終わりなのだが勝手に延長した。

「私がいない間、朝廷ではどうでした?」
「・・・そうですね・・・・毎日忙しいのは変わりないです。
高官の方々にもよくして貰えて毎日充実しております。」
「・・・それはそれは・・・」

静蘭は頷きに隣を勧めた。
は嬉しそうに座る。

「そんな方々に最近色々頂いてばかりで申し訳ないくらい・・・
・・・何かお返しができればいいのですが・・・」

静蘭の笑顔が固まった。
・・・贈り物?
そういえば の髪を見ると見慣れない簪がついていた。
それもかなり高価な物で が自分で買った物とは考えにくい。
静蘭の瞳が冷たく光った。
黄尚書と楸瑛が贈ったという事は確認済みだったが自分のいない間に随分っ言い寄られたものだ
がその意味に気付いていないのが幸いといえよう・・・。

「やはりその方が好きな物を選んで返せば良いですかね?」

真面目に相談してくる に静蘭は『そんなもの今すぐ捨ててしまいなさい』という言葉をぐっと飲み込み、

「皆さんのご好意ですし別に返さなくてもよろしいですよ」

と言った。勿論、笑顔を崩さない。むしろ黒いオーラが光っている。
その時朝廷の銅鑼が鳴り響いた。
はそれを聞いて立ち上がる。

「あっ・・・ゆっくり話できなくてごめんなさいっ。
あっ・・・これ・・・」

は静蘭に紙袋を差し出した。

「秀麗ちゃんみたいにおいしくは出来ないのですが・・・良かったら食べてくださいっ」

静蘭は完璧な笑顔で袋を受け取った。
我が妹ながらとても可愛らしい。

「えぇ・・・わざわざありがとうございます。
お嬢様の料理も美味ですが 殿の料理もおいしいです。
自信を持って下さいね」

はその台詞にじーんときた。
我が兄ながらかっこよすぎる。
そして優しい・・・。

は会釈して戻って行った。
静蘭は息をついてから目を細めた。
見慣れない簪は一体誰からの贈り物だろうか。
そして劉輝からの呼び出しとはもしかして・・・。

「よう、静蘭。女から贈り物か?お前も隅におけねぇな」
「・・・・白大将軍。お言葉ですが元々隅にいるつもりはないですから」
「おっ言うな・・・。他の連中が恨めしそうにみてるぜ」
「そうですか。では皆さんにさっさと可愛い彼女を作ることをお勧めしますね。
では私はこれで・・・」

礼をして去ろうとした静蘭の肩を雷炎がつかんだ。

「ちょっとまて」
「・・・なんですか。
先に言っときますけど貴方の妙な訓練に付き合いませんよ」
「・・・まぁ堅いこと言わずに付き合えや。
その中身は・・・・饅頭だな」

その台詞に静蘭の肩はビクリと跳ねた。
・・・まさか・・・この人・・・。
逃げようとしたがしっかりと肩は掴まれている。
雷炎はそのまま大声を張り上げた。

「おいっ野郎共っ。ここにいる色男が の手作り饅頭持ってるぞ!
欲しい奴は奪い取れ!俺が許すっ!」

・・・やっぱり・・・。

雷炎の声は遠く朝廷全体にいる独り身の武官の耳に入った。
こちらに勇ましい雄叫びか向かってくる。
目の前まで獲物を構えて向かってくる部下達が見えるまで雷炎は静蘭を離さなかった。
そして静蘭を離した直後彼のいたところに矢の雨が降り注いだ。
まさに危機一髪。

「・・・この・・・っ、鬼畜上司・・・・」

静蘭は近くにいた武官五人を一気に倒し人のいないところへ向かう。

「はっ、毎日弱い奴の相手じゃつまらんだろ。優しい上司からの愛として受け取れ!」
「丁寧にお返し致します」

・・・と言っても他の部下達の攻撃が止むわけでもなく、静蘭はしかたなく剣を抜いた。
手作り饅頭争奪戦の始まった。
結果はいうまでもなく静蘭の一人勝ちだった。

深夜劉輝の寝室の扉が開かれる。
劉輝は顔をあげた。
そして入ってきた人物に微笑んだ。

「・・・旦那様から言伝を・・・」
「わざわざ申し訳ありません・・・。
最近妙な事になっていまして是非相談したくて・・・清苑兄上・・・」

劉輝は静蘭に礼をした。
今日ばかりは兄弟で話さなくてはならない話題だった。
静蘭も気付いているらしく咎める事はなかった。
静蘭は椅子に座り、劉輝は茶を出した。
一拍しんと室内が静まる。

「・・・で、話と言うのはの事か?」

静蘭の言葉に劉輝が頷いた。
というか自分達が兄弟として話せる話題は九割彼女の事しかない。
いくらその身分を捨てようともそれだけは捨てきれなかった。
甘いな・・・と思いながらも静蘭は劉輝の話を聞いた。

「・・・こんな感じです、兄上・・・。流石に王としても限界があるますし・・・」

見守るだけしか出来ないのが悲しかった。

「そうか、やはり簪を・・・。しかも面々が予想以上に手強いな」
「絳攸殿や藍将軍くらいなら何とかなるんだが・・・」
「それよりも、彼らより他の人の方が厄介だ」

特に尚書や侍朗の位までいくとこちらの介入不可で。
静蘭は今の地位にいるのが歯がゆくなった。
始めから羽林軍にいれば楸瑛の地位にもいれたかもしれないのに。
それさえなれば尚書や侍朗とも少しは対抗できる。

「簪か・・・」
「どうする劉輝・・・危険かもしれないが賭けてみるか?」

劉輝はしばし沈黙したが最後には頷いた。

「では・・・売られた喧嘩は買うとしよう・・・」

静蘭の鮮やかすぎる笑顔に劉輝は改めて味方で良かったと安堵した。

「・・・では具体的にだが・・・」

次の日。

「・・・えっ、高官達で親睦会を・・・っ!?」

朝議の最後に配られた紙にはそんな事が書かれていた。
劉輝は笑顔で言った。

「あぁ、朝廷も順調に回ってきたし、余からの感謝の気持ちとしてな。
特に侍朗以上は参加して欲しい。
後は、将来有望な官吏達にも参加してもらおうと思う。それは個別に声をかけておく」

・・・その言葉に鳳珠がピクリと反応した。
出ないつもりだったのに・・・・。
隣にいた柚梨は上司を宥めた。

「・・・・まぁたまにもいいじゃないですか。
貴方には社交性がたりませんし・・・」
「なくていい」

即答した鳳珠に柚梨は苦笑した。

「参加費はそっちもちか?」

飛翔が言った。劉輝の目が光る。
飛翔には是非来てもらわなくてはいけないのだ。
これはただの親睦会ではないのだから・・・

「あぁ余が全て負担しよう」

劉輝は鮮やかに笑った。飛翔はかなりノリ気のようだ。
飛翔と玉確保・・・。
鳳珠も柚梨が無理やり連れて来てくれるようだし。
黎深はどうでもいいし(むしろ来てくれたらややこしくなる)、絳攸と楸瑛は来てくれそうだし・・・あとは適当に集めて・・・・。
反応はそこそこに今日の朝議は終わった。

内朝で行われた酒宴はかなりの規模があった。
ただの酒宴なので気張ることも無い。
それぞれが好きに雑談や食事に華を咲かせていた。
劉輝は玉座に座り、会場の様子を見ていた。一応来て欲しい人物達は集まっている。
警護・・・というのは表の理由で静蘭も参加していた。
まず簪が誰から貰ったか、正体を明らかにしなくてはいけない。
そのために劉輝たちは色々用意した。

「皆のもの今日は良く集まってくれた。
今日は余から皆に感謝の気持ちを込めてこの宴を用意させていただいた。
皆存分に楽しんでもらいたい」

会場には華やかな衣装を着た後宮の女官が入ってきた。
絳攸は微妙に顔をしかめる。

「・・・おい、主上。
この宴は何のつもりだ・・・」

続々と入ってきた女官達に絳攸が劉輝に言った。

「・・・まぁ絳攸たまには良いではないか・・・。
今日は純粋に楽しんでくれるだけでいい」
「・・・はぁ?また訳のわからないことを・・・」
「絳攸も女嫌いを直してくるために、ほらさっさといくのだ」
「・・・えっ、ちょっ主上・・・っ」
「楸瑛、絳攸を頼む。」
「御意に。
さて、行こうか絳攸」

爽やかに絳攸の腕を引く楸瑛に絳攸が怒鳴りつける。

「寄るな、掴むな、この常春っ!!
お前と歩くと女共が・・・・っっ」
「きゃ〜藍将軍〜!!」
「李侍郎もおられるわ」

黄色い声とともに絳攸は女官達の波に流されていった。
劉輝はそれを爽やかに見送ってまた会場を眺めた。
・・・余にとっては、今日は大切な日なのだ・・・。今日だけは許せ、絳攸・・・。
そう思いつつ・・・劉輝は女官で華やかになった会場を見回した。
一番大切な人が来ていないではないか。
その時、正面の扉が開いた。
会場中の視線がそこに集まる。そして、しんとなった。
数人の女官に連れられてきたのは、銀色の髪を持つ若い少女であった。
丁寧に結われた髪には技巧を凝らした簪があり、まとっている着物にも細かい刺繍がされていた。
静まる会場内を少女は真っ直ぐ王の下に歩いていった。
それを誰もが静かに見守った。
・・・あの女は誰だ・・・?
その疑問が会場中を巡る。

「・・・主上、今回の宴お招きありがとうございました」
「遅かったではないか。しかし、来てくれて嬉しいぞ」
「・・・遅れて申し訳ありません。色々手間取ってしまって・・・」
「いや、良い時にきてくれた・・・。
さて、皆の者宴を続けてくれ」

会場にまたもとの雰囲気が戻りつつあった。
劉輝は少女を自分の隣に座らせた。

「・・・やはりは光物が似合うな。綺麗だ」

真っ直ぐな視線で言われて の顔が赤く染まる。

「・・・おっ、お世辞でも嬉しいです・・・。
ありがとうございます」
「本心だ。」

はここに来て初めて周囲を見渡した。
かなり自分には場違いな場所だと思うのだが・・・。
ここは上官達が集まる酒宴なのではないのか?

「・・・で?今日私が呼ばれた理由をお聞かせ願いたいのですが・・・」
「たまには妹と水入らずで過ごしたいだろう?」
「・・・はぁ・・・しかし、こんな公で・・・・」
「・・・公だからこそいいのだ。
売られた喧嘩は買わないといけないだろう?」
「・・・・?」

喧嘩?

話の意図がつかめずは首を傾げる。
劉輝は立ち上がりの手をとった。

「さて、今日一日余についてきてもらうぞ」

は劉輝の顔を見た。嬉しそうな劉輝の顔に思わずこちらも笑んでしまう。

「はい、喜んで」

さりげなく静蘭も護衛のため、劉輝の後についてきた。と目が合い静蘭も微笑する。

「・・・藍将軍があんなのですし、今日は私が劉輝様の護衛です」
「本当ですかっ!?」
「えぇ。」

劉輝と静蘭と目があった。そして互いに頷く。
大事な妹に手を出した罪は重いと知ってもらわなければいけない。
劉輝はを連れて、色々な人物の元に向かった。
初めは案外ばれるものかと思っていた だが、見事にだと誰も気づいていない。
を見るたび、新しい嫁候補かという声と視線が投げかけられる。
二人はやんわりと否定しながらも、それらしい雰囲気をかもし出していた。

「・・・なぁ、あの坊ちゃん王の隣にいるのって・・・・」
以外の誰がいる」

話しかけてきた飛翔を鳳珠は冷たくあしらった。
飛翔はいつもと同じ仮面を見た。どうやらご機嫌が麗しくないらしい。

「しかし、もいつの間に王と仲良くなったんだ?」

飛翔の問いに鳳珠は口をつぐんだ。
いつの間に・・・というより兄妹なのだ。自分達よりはるか先に仲良くなっている。
勿論、それは言わずに置く。や王の立場云々というよりただ単に面倒であった。

しかし・・・
鳳珠はフン、と鼻を鳴らした。
かなり気に食わない。
その時鳳珠と劉輝の目があった。
劉輝はふわりとした笑顔で鳳珠に微笑みかける。その笑顔があまりにも胡散臭くて鳳珠は目を細めた。
手に持つ杯を衝動で割りそうになる。

「・・・鳳珠・・・。主上の隣にいる方って誰なんでしょう?綺麗な方ですねぇ」

鳳珠の気持ちを知ってか知らないでか柚梨がのほほんと話しかける。
鳳珠はその台詞に怒りも忘れて柚梨の横顔を眺めてしまった。

「・・・お前・・・本気で気づいていないのか・・・?」
「・・・は、何がです?」

このような展開秀麗のときもあったが、秀麗はともかく まで気づかないとは・・・。
鳳珠は返す言葉もなかった。
・・・ここまでくればにぶいを通り越して失礼に値するのではないだろうか・・・?

「でも鳳珠、何にイライラされているのですか?せっかくの酒宴なのですしもっと楽しまれては・・・」
「これでは普通の酒飲みと変わらん。
大体・・・」

鳳珠が言葉を止めた。
そういえば、よく見てみると今、会場にいる人物達は・・・。
そして王と静蘭を見る。

・・・まさか・・・。

劉輝が高官達と談話している最中には静蘭と談笑をしていた。
中々二人きりになれない分にとってかなり幸せだった。

「・・・、甘菓子食べますか?」
「はい、ありがとうございます」

静蘭に蜜のたっぷりついた甘菓子を渡されは満面の笑みで微笑んだ。
静蘭も武装なんかしていないですっきりした着物を着ればいいのに・・・と残念に思う。
絶対似合うのに。
劉輝が高官達との談笑から戻ってきた。そしての指先に目を落とした。

、指に蜜がついておるぞ」
「えぇ、先ほどそこの甘菓子を・・・」

劉輝は言うが早いかの手をつかみ蜜をぺろりと舐めた。

「・・・なっ・・・あに・・・主上っ!?」
「うん、甘い。
余ももらおう」

満足そうに微笑まれて は顔を赤くするしかなかった。
秀麗はいつもこんな兄に相手をされているのかと思うと、秀麗を尊敬する。
絶対かっこいいから。絶対惚れるから。
周囲でガシャンと陶器の割れる音が続出した。そして周囲がざわつく。
王の予想だにしない行為に驚いたのであろう。

劉輝は密かに周囲の反応を楽しんでいた。
本命の部類の者達があまり動揺していないのは不本意だが・・・。
多分黄尚書辺りにはこの意図は読まれていると思うのであまり効果は期待しないが・・・。
・・・なんだろう、あの仮面からとんでもない怒気がこちらに向けられている・・・気がする。

「主上・・・・やりすぎでは・・・。もし妙な噂が・・・」

のたしなめにも劉輝は反省した様子も見せなかった。

「別に構わない。
大体 だと気づかれていないし、これくらい大丈夫だろ。
さて、中だけではつまらないし散歩にでも行こうか」

こっそり酒宴から抜け出し三人は誰もいない裏庭に出た。
そういえば、ここには思い出がある。

「・・・ここで・・・私達は出会いましたよね?」

がはっきりと覚えているのはここしかない。
清苑に初めて膝を折ったときの場所がここであった。

「あぁ・・・やっと戻ってこられたという感じだな・・・」

三人が出会ってわずか、清苑がいなくなり、 もいなくなり、それから何年が経っただろう。
夢だけは見ていたが、まさか全てを諦めた今、こうやって戻ってこられるとは。
夢で見ていたのとは少し違うがそれでも自分達はここにいる。

「戻りたいとは思いませんが・・・やはり良いものですね」

失った物は大きかったが、今失ったもの以上のものを手に入れることが出来た。

「・・・

兄に呼ばれては振り返る。

「もういらないかもしれないが・・・」

劉輝が簪を差し出した。そこには綺麗な紫色の石がはめ込まれている。
他にも様々な宝石がちりばめられていた。
は目を丸くした。

「・・・これは・・・」
「私と・・・兄上からの贈り物だ。
受け取ってくれ」

思われる簪をはされるがままに髪に挿されていた。
その国宝級の簪はさまざまな簪に彩られた の頭の中でも一層その存在をひきただせていた。

「・・・あの・・・これ禁色では・・・」
「今日くらいいいであろう?気づくものは恐らくいない」

そういいながらも、気づいてもらわなくては困る。と内心思った。
何のための宣戦布告か分からない。
静蘭と劉輝は の手をとって手の甲に口付けをした。

のこれからに幸が多く訪れますよう・・・』

その言葉には苦笑した。

「兄上達とこうしていられるだけで私は幸せですよ。
さて、そろそろ戻りましょう。主上がおられなくなったら騒ぎになります」
「むぅ、それもそうか・・・」
「・・・このような機会、作ろうと思えばいつでも作れる・・・。
そうでしょう?」

静蘭の言葉を聞いて劉輝と は頷いた。
もう、誰も邪魔をする人はいない。

会場に戻った の変化は分かる人にだけ気づかれた。
劉輝は用意された席からその反応をうかがう。
を先に返し、後ろにいる静蘭にぼそりと呟いた。

「・・・兄上・・・。効果はあったようですね・・・」
「まぁ・・・効果はどうかは分からないが・・・
それなりにこちらの意図は掴んでもらえたようだな」
「少しは の男除けになればいいのだが・・・」
「多分無理でしょうね。
これだけで諦める人達なら、こんな回りくどいやり方初めからしてません。
もう少し・・・貴方に威厳が必要ですね」

静蘭は劉輝を見た。劉輝も静蘭を見上げる。

「・・・努力します」
「えぇ、頑張ってくださいね」


「・・・ か?」

この姿でうろうろするわけにもいかず、とりあえず府庫に行った だが、なんとそこに珀明がいた。
今日は休日ではなかったか?
理由を聞く前に向こうから答えてくれた。

「あぁ、絳攸様を目指すために貴重な休日を潰して独学中だ。
・・・で何故そのような格好を・・・?」
「・・・馬子にも衣装ってやつでしょう?
似合う?」
「悪くはない。
そういう派手派手しい衣装は妙に似合うしな。お前」
「・・・なんか褒められているような、いないようなって感じだけど・・・まぁいいわ。
これ着て大人しくしていたらほとんどの人に気づかれていなかったわ。
ちょっと今日高官だけの酒宴があってそれに呼ばれたのよ」
「そうなのか・・・。僕もそのような酒宴に呼ばれるためにも頑張らなくては・・・。
・・・新しい簪をまた買ったのか?」
「・・・え?」

珀明からそのような指摘がくるとは思いもしなかった。

「・・・あ・・・いや・・・。最近色々増えているから・・・。
少し気になっただけだ。
これでも碧家の者だしな。細工などには自然に目が行くのだ。
で・・・・この色はもしかして・・・」
「あぁ、主上からいただいたの。似合う?

その言葉に珀明の顔が蒼白になった。

「・・・はぁ?お前何したんだ?
玉の輿でも狙うつもりかっ!?」
「別に・・・そんなつもりではないけれど・・・。
ありがたくもらっておいたまでよ。主上には別に想い人がいるからね・・・。
逆にこんな高価な贈り物はしないわよ」
「・・・そう・・・なのか?」
「そうなの。じゃ・・・私も本でも読もうかな・・・。
この服・・・一人じゃ脱げないのよ・・・。恥ずかしいことに・・・・」

後宮の女官達はまだ酒宴の方にいるし、もう少し我慢しなければいけないようだ。


そして次の日。

「主上っ!?
昨日の女官はどなたですかっ!?」
「昨日の酒宴は婚約発表ではなかったのですか!?」
「・・・んなわけないだろう。
忙しいから後にしてくれ・・・」

五月蝿い老官共を手で追い払いながら劉輝はげんなりとした表情をみせた。
分かっていたことであるが、いざその時がくると嫌なものだ。

「名前だけでも・・・っ」
「どこの方ですか!?」

その時扉を叩く音が聞こえた。

「?です。戸部から書簡を届けにまいりました」
「ご苦労、そこにおいておいてくれ」

老官達は に目もくれず、王に問いただしている。
は溜まっている老官達を見、そして劉輝を見て苦笑した。
劉輝もその視線に気づいたのか苦笑した。
・・・昨日の美女はそこにいるのに・・・。

高官達の間で謎の美女の噂が広まっているが、誰も だと気づくものはいなかった。
たとえ本人が隣を通ったとしてもだ。
一応証拠に昨日劉輝から貰った簪を挿してみるが『禁色だ!』と怒られるわけでもなく、反応がなくてまた凹む。

・・・外朝ではそんなに魅力がないのかしら私・・・。

勿論、その紫色の簪にやきもきする人達がいることをは気付くはずもなく・・・
ただ平和な毎日が続くだけであった。

   

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