「・・・あれ?」

今日はやけに知り合いに会う。
更に歩みを進めると秀麗達を見かけた。
静蘭と、あと知らない男が一緒にいる。
片手にタヌキを持っているので間違いない。
奴が、噂に聞く『榛蘇芳』か。
ぼんやりと見ていたら向こうもこちらに気づいたようだ。

ちゃーんっ!!」
「あぁ、秀麗ちゃん、静蘭殿。
お久しぶりでございます」

は秀麗に笑顔、静蘭に会釈を取った。
そして最後にタヌキを持った青年を見上げた。
デートと聞いたが、静蘭もちゃんとついているじゃないか。
しかも秀麗か誰かに無理矢理つき合わされているような雰囲気があった。
・・・まぁそんなことだと思ったけど。

「あぁ・・・・もしかして、茈か?
朝廷で見たことある」

は我に返って蘇芳に会釈した。

「・・・貴方が榛蘇芳殿ですね。
申し訳ありません、私の方は今日始めてお目にかかります」
「ん・・・あぁ・・・。
っていうか、何で俺の名前・・・」
「ちょっとそこで名前を耳にしたもので」

蘇芳も細かいことには気にしていなさそうだ。
ふーん、だけで終わる。
蘇芳はが珍しかったのか、その後上から下までじーっと眺めていた。

「・・・あのー・・・・なにか?」
「いやー・・・すれ違う時はいつも大量の書簡持って走ってるしなぁ。
こんな細腕であんだけの力がでるもんだな」

蘇芳はすっと、の手首を握った。
突然のことにと秀麗は目を丸くした。
それと対称に静蘭の目が細くなる。

「・・・ちょっとタンタン君」

静蘭が微笑して蘇芳の肩に手を触れた。
蘇芳はビクッと大きく震える。
静蘭は微笑を浮かべているが、その瞳の奥にはただならぬ怒気が感じられた。
蘇芳はぱっとの腕を放した。

「・・・ごめんなさい。
・・・殿・・・」

素直に謝った蘇芳にもあっけにとられた。
口調も微妙に変わっている。

「いえ別に・・・」
「そういえば、は何でこんなところに?」

秀麗がタイミングよく話題をずらした。
蘇芳はほっと息をつき、静蘭はチッと内心舌打ちする。

「まぁ、本当は出仕してたんだけど・・・・珀・・・いや人探しを頼まれてね。
姮娥楼に行こうかと思って・・・」
「姮娥楼。
さっき行ってきたけど・・・誰を探しているの?」
「えーっと・・・歌梨って方・・・・」
「歌梨って・・・あの方?
さっき急いで出て行ったみたいだけど・・・。
三太の持ってきた贋作を見てとんでっちゃった・・・」

ちなみに秀麗は手に持っていた巻物を秀麗に見せる。
もあまり絵は鑑賞しないがそれなりに目は肥えている方だ。

「・・・・うーん・・・・分かんない」
「普通の鑑定士でも間違えるっていっていたからそんなもんよ」
「それだけ上手いなら贋作なんてやらないで好きな絵描いて売ったほうが良いと思うけど・・・」

は素直な感想を述べた。
しかし歌梨がこれをみてすっとんでいったというのなら何かこの絵に手がかりがあるに違いない。
は水墨画まじまじとみた。
・・・分からない。
もう少し小さい頃芸術品に興味を持っておけばよかったな。と今更後悔した。
後で珀明や玉に色々聞いておこう、とは思った。
人生どんな能力が役立つか分かったもんじゃない。

「歌梨さんは秀麗ちゃん達とすれ違いで姮娥楼を出て行ったのよね。
すれ違いか・・・。
どこに行ったかわかる?」
「すぐに出て行っちゃったからそこまでは・・・」
「ちなみにどんな人だった?」
「うーん・・・。なんか凄い人。
髪に波がかかっててそれを一つにまとめているの。
歳は二十代半ばで・・・綺麗な人よ」

やっぱりなんか凄いんだ。
あながち珀明の説明は間違っていない。
しかし、秀麗達とすれ違いで出て行ったとは・・・また時期を逃したものだ。
とりあえず胡蝶さんに聞けば何か分かるかもしれない。

「ありがとう、じゃあとりあえず姮娥楼に行ってみるわ。
胡蝶姐さんにも会いたいしね」
「・・・そういえば・・・歌梨殿・・・
藍将軍達も探していたようですが?」

静蘭の言葉にの目が細められた。

「・・・藍将軍達?」

楸瑛単独なら、謎の美女を追って〜みたいなことも考えられるが、『達』とつくと裏になにかありそうだ。
珀明が焦る理由がなんとなく分かるような気がする。
碧家の危機(?)と恐らく朝廷でのいざこざがあったのだろう。
・・・まさかそれに巻き込まれるとは・・・。
は何か嫌な予感がしたが、珀明の事を思うとここで諦めるわけにもいかなかった。
何としても楸瑛達よりも先に歌梨さんを見つけなくては。

「貴重な情報ありがとうございます。静蘭殿。
・・・そういえば、三人で何してんの?」
「あぁ、贋金が出たとかなんたらで・・・」

秀麗が直ぐに蘇芳の足を踏み、静蘭が殺気のこもった視線を送った。

「あのねー。ほら、贋作が出回ってるってきいたから私も調査をね。
三太のお父さんも騙されてるし・・・ほっとけないじゃない」
「・・・そう・・・じゃ、頑張ってね」

はそこで秀麗達と別れた。

・・・贋金・・・ッ!?そんな話一言も聞いてないわよっ!?

秀麗達から離れ、は立ち止まって頭を抱えた。
自分はほんのさっきまで鳳珠と一緒にいたが、そんな話題は出てきていないし、もし出てきたら戸部中が騒ぎとなる。
鳳珠様が黙っている、または情報を差し止められてるって可能性が高い。
今謹慎中の秀麗が贋金の話を他の朝廷関係者から聞いているはずもない。
今の情報の中から贋金が絡みそうなところは?娥楼。
楸瑛達にもそこで会ってるから・・・楸瑛達も贋金のことは知っている。と仮定した方がいい。
・・・知らないで歌梨探しを優先するだろうか、否。

「・・・戸部に内緒で贋金たぁ・・・やってくれるじゃないの」

何か思惑があるにしろ、蚊帳の外という状況が面白くない。
こうなりゃついでだ。
楸瑛達が頑張って探しても歌梨は未だ見つかってない模様。

「この謎・・・・私が全て暴いてみせる!」

フフフ・・・と一人笑みを漏らしながら、は?娥楼へ向かった。

『・・・・・・・・・・』


「おや、ちゃん、今日はお客が多いねぇ・・・」

待ち構えていたように胡蝶が出迎えてくれた。
少し気が立っているのだろうか、笑みに少し緊張が残っている。

「お久しぶりです。胡蝶姐さん。
相変らずお美しくていらっしゃいます」

の言葉に、すべての男が見惚れてしまうほどの笑みを胡蝶は浮かべての頬にそっと手を添えた。

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
本当最近の男と来たら・・・。
目の前の問題だけで私にはちっとも構ってくれやしないんだから・・・
最低だと思わないかい?」
「はぁ?
胡蝶ちゃんをみて褒めない方がどこにいますかっ!?
目がおかしいんじゃないんですかっ、全く。どこの馬鹿ですっ?」

力んでいったに胡蝶は微笑して答えた。しかし目が笑ってないのをは確認した。

『藍将軍と、主上と、李侍郎と、静蘭』
「・・・・うっ・・・・」

うち二人が自分の兄である。
は前言撤回したくなった。ごめん、兄上・・・ごめん、胡蝶さん。
あとで会う機会があれば、少し言っておこう、とは心に誓った。
この人は怒らせてはいけない。
お茶を出してもらい、はそれに手をつけた。

「あの・・・藍将軍達も訪ねに来たと思うのですが、歌梨って方を探しているんですけど・・・」
「あぁ・・・あの子ならしばらくここには帰ってこないと思うねぇ。
夜になっても帰ってくるかどうか・・・
物事決めたら一直線だから。
今回の慌てぶりはただ事じゃないようだったし・・・
なんだい、ちゃんも探していたのかい。」
「・・・まぁ・・・知人に頼まれて・・・」

胡蝶はふーんとを見た。
なんとなく裏の事情は察することが出来た。

「あっ、大旦那さん。お邪魔してます」

丁度店の奥からほくほくな顔をした大旦那が出てきた。

「おや、ちゃんかい。
いらっしゃい。ゆっくりしていきなよ」
「何やら楽しそうですね。
新しい絵でも手に入れたのですか?」

大旦那はさらに笑顔になった。

「あぁ、まだ無名なのだが中々良い絵でね。
そろそろ飾っても良いかな」

おお、とと胡蝶は小さく感嘆の声を上げた。
大旦那がそこまで気に入っているのだ。どんな絵か気になる。
大旦那が奥から持ってきた巻物を胡蝶と一緒に開いてみる。
どこかの庭の風景画であった。

「・・・へぇ・・・これは凄いね。
確かに将来有望・・・」
「そうですねぇ。でも・・・普通にどこかの家の庭を書き写したような・・・・?
悪くはないですけど、もう少し現実離れしていた絵の方が私は好きかなー」
「・・・この絵・・・どこか幽谷に・・・」
「・・・幽谷?」

は胡蝶の言葉に眉を潜めた。
幽谷といえば天才的な画廊。

「・・・幽谷・・・珀明・・・のお姉さん・・・藍将軍・・・というか兄上・・・あと贋作・・・」

何か偶然ではないものを感じた。
感じるが、今一番大切な歌梨捜索の手がかりが一つも無いのが悲しい。

「そういえば、胡蝶さん・・・・。
こっそり贋金のことについて教えてくれませんか?」

胡蝶は驚いての方を見た。

「何でそれを・・・」
「これでも戸部官吏ですから・・・。
ってのは嘘で蘇芳殿がポロっともらしてくれて・・・。
どうやら上の方で情報制限が掛かっているみたいなんです。
・・・まだ戸部にも伝わっていないと思うので、私がちょっとだけ情報を入れておきたいと思いまして。
お願いしますっ」

パンと手を合わせるに胡蝶は苦笑した。

「薄情な男共より可愛いちゃんに協力した方がましってもんさ。
こっちだよ」

秀麗の発見したという贋金を見せてもらった。
確かに本物そっくりだ。しかし天秤に載せてみると本物側に傾く。
美術品などでは、大きな金が動くから下手すればかなりの額が出回ることになる。
早く元を叩かなくては・・・

「・・・なるほど、本当そっくりですね。
こんなのが出歩いているなんて・・・。
こっちはそろそろ冬の決算報告という春一番の修羅場が待ち構えているという時期に畜生ーっっ」

ちなみに、この修羅場がくると戸部官吏は春を感じるのである。
もはや年中行事だ。
すっかり朝廷に染まってしまったに、胡蝶は苦笑した。

「すっかり朝廷に馴染んじゃったねぇ・・・・
なんか下街で働いていた頃が懐かしいよ」
「はい、まぁ・・・今年はほとんど休み無しで出仕してますしね。
胡蝶姐さんのところにも中々顔出せなくて・・・」
「全く本当だよ。
お偉いさんもこんな可愛い子をこき使うなんて・・・。
大丈夫かい?酷い事されてないかい?」

胡蝶はを抱きしめ頭を撫でた。
豊満な胸が目の前にきて、流石のも頬を染める。
上を見えれば胡蝶の美貌が光り輝く。

・・・うぅ、鳳珠様も素敵だけど、胡蝶さんも負けてはいないわ・・・

「だっ、大丈夫です・・・・。
皆さんよくしてくれますし、大分働きやすくなってきましたし・・・」
「頭にきた奴がいたら直ぐに胡蝶にお言い。
一切花街に近寄れなくしてやるからね」
「大丈夫ですよー。
私護られてますもん。

・・・では、そろそろお暇します。早く歌梨さんを見つけないと・・・」

「多分無駄足だと思うがねぇ・・・。
何か伝言とかあったら伝えておくよ」

は少し迷って、紙に一言書いて胡蝶に渡した。

「これを渡せば分かっていただけると思います。
情報提供ありがとうございました」
「いいってもんよ。
またいつでもおいでね。
私もちゃんの顔がみれないと寂しいよ」

はニコリと微笑んで胡蝶に礼をした。
さて・・・とりあえず・・・
贋金のことは秀麗ちゃんに任せて、歌梨さんを探しますか。
一枚貰った贋金を指で弾いてまた手の中に戻した。

「さて・・・どこに行きますか・・・」

は当ても無く下街を歩き始めた。

   

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