『おどきなさい、そこの下郎っ!!邪魔ですわ!!』

あまりの声の迫力に皆が振り返る。
その視線の先には金髪を一つに括った美女がいた。
しかも物凄い速さで走っている。
もその傍観者の一人だった。
なんか・・・女の人の声が聞こえたような・・・・
大通りに出てその声の行方を捜そうとしたときである。
の目の前に大男が立ちはだかった。
に、というのではなく前から走ってくる女の邪魔をしている。
それに気づかず邪魔だな、とが大男を避けようとしたときである。

「そこをおどきなさいっ!!」
「・・・はっ?」

声と共に大男は後ろに倒れてくるではないか。
は咄嗟に後退した。
そして目の前の光景に驚く。
大男を倒したのは若い美女である。
股間を蹴っただけでは飽き足りず、顔まで問答無用に踏みつけている。
はなんと言っていいか激しく迷った。

「・・・全く男というのは害虫の別名を言うのですわ!死んで出直しなさい!!」

見事な捨て台詞を残し、美女はその場を去っていく。
は唖然とその場を動けなかったが、美女の容姿と破天荒ぶりにはっと我に返った。
もしかして・・・

「歌梨殿っ!?」

急いで追いかけようとするが、振り返ると近くの少路に飛び込んだあとであった。
貴重な手がかりを失ってしまった・・・。
は追いかけるかやめるか迷った。
その時後ろから声がかかった。

「おや、殿ではないですか」

追いかける、という選択肢は消えた。

「・・・幽谷殿をお探しで・・・」
「そうなのだ、余の肖像画を描いてもらおうと思って・・・」

久しぶりの会話に劉輝はほくほくであった。先ほどの『下郎』と『害虫』の単語ははるか遠くに消えている。
しかし、贋金のことを秘密にされていたは内心穏やかではなかった。
一応隠しているには理由があるのだろうから責めないが・・・それでも腑に落ちない。
この不機嫌を押さえきれないようなので申し訳ないが絳攸に当たってみた。

「・・・絳攸様もこちらにおられたのですね。
吏部は壊滅寸前だというのに・・・・」

絳攸はその言葉に苦笑する。今日は何か女運がないのだろうか・・・
どこへ行っても冷たい目で見られているような気がする。

「今日は主上の付き合いだ。
幽谷殿捜索の方を今は優先したい。
そもそも黎深様が仕事をされないからこういうことになっているのだ・・・。
まぁ・・・・それも鄭宰相がおいでたから時期に改善されると思うのだが・・・」
「上司が仕事しないと部下ってついてきませんよ」
「・・・悪かったな、黄尚書と比べないでくれ・・・。
・・・・・・・。
・・・・そうえいば、今日は仕事じゃないのか?珍しいな」

は暇があれば鳳珠と朝廷に出仕しているし、今は吏部が修羅場のとき。
かりだされているはずなのだが・・・。
逆に痛いところをつかれ、はふいと目をそらした。

「あぁ・・・今日はまぁ・・・ちょっと用事がありまして。
そういえば幽谷殿は見つかったのですか?」

どうやら歌梨と関係がありそうなのでさり気なく聞いてみる。

「この状況をみれば分かるだろう。見つかっていればとっくに吏部に戻っている。
今のところそれに近いらしい『歌梨』という女なら・・・情報だけ。
どうやら書画屋をしらみつぶしに周っているらしいけど・・・」
「贋作を探しているらしぞ」
「そうですか・・・」

のの落胆の表情をみて、絳攸が眉を潜めた。

「・・・お前も何か用があるのか?」

・・・ギクッ
恐らく珀明は絳攸や劉輝に歌梨の事をばらしたくないのだろう。
まぁ、もう会ってしまってはいるのだが。

「いえ・・・私も幽谷殿の絵が好きなので機会があればお会いしたいなぁ・・・と思っているだけで」
「では、も一緒に探すか!」

劉輝が後ろから抱き着いてきた。
本当に犬みたいだな・・・と思いながらは劉輝に微笑みかけた。

「はい、付き合いましょう」

劉輝は嬉しそうに歩き出す。
絳攸と楸瑛はその姿に息をついた。もう諦めの色が出ているのであえて咎めない。
・・・はっ、一緒に行動してたら意味無いじゃん。
気づいたのは劉輝に手を握られ、歩みを進めた瞬間であった。

「(・・・本当に屍のようだな・・・。
全く黎深も李侍郎もこんな時にどこに・・・)」

鳳珠は動く屍と化した吏部官吏とすれ違いながら回廊を歩いていた。
既に鳳珠に会釈をする力も残っていないらしく、青い顔で鳳珠の横を通り過ぎていく。
そのような事は気にしない性質なので別に咎めはしないが、この状態には仮面の下で苦笑するしかない。
流石の鳳珠も良心が痛み悠舜に訪ねるついでに黎深を探しに出かけた。

「しゅ〜じょ〜!!」

劉輝にとって地獄の響きだと思われる声が回廊の奥から聞こえてきた。
既に聞きなれてしまった鳳珠はそのまま進む。
そして少し目を離していたところ、足元にパフッという軽い衝撃を受けた。

「・・・・・」
「しまった、前方不注意で・・・」
「羽官吏・・・」

仮面とモコモコの目があった。

「黄尚書〜っ。貴方からも主上に何か言ってくださいませ〜っっ」
「・・・は?」

鳳珠は少したじろいだ。
何を、と聞くまでもなくこのうーさまの言うのだから嫁問題の事であろう。

「・・・いえ・・・・私は管轄外ですし・・・」

というか自分も未婚なわけだし言っても説得力がない。
鳳珠自身も黄家から口煩く言われていて劉輝の気持ちは分かる。
その上秀麗を好いているというのも知っているし別に焦らなくてもいいと思う。

「主上は少なかず貴方の言葉に反応しておられますし、是非お力をお貸しいただきたい!」
「いや・・・私では説得力がないでしょう・・・。
残念ですがお力になれる事は・・・」

うーさまはハッと気付いたように鳳珠を見た。
そういえば顔が原因で振られて以来恋愛関係の噂はなかったっけ・・・・

「・・・はっこれは申し訳ない!」

鳳珠もその言葉の意味に気づき内心溜め息をつく。

「いえ、別に」

嫌な沈黙が続くようなので鳳珠は退散する事に決めた。
ついでに黄尚書の嫁御を・・・とか言われたらたまったもんじゃない。
ではこれで・・・と会釈したときうーさまからとんでもない一言が発せられた。

「黄尚書が女子ならよかったのぅ…」

流石の鳳珠もプチっときた。

「それ以上言うと羽官吏といえどぶっ飛ばしますよ・・・」

指をパキパキ鳴らしながら鳳珠は冷ややかに言った。

「ほっほっ・・・・相変わらずな性格でよろしいことじゃ・・・。
仮面だけでは物足りないからの」

鳳珠はその言葉にうっと詰まった。
流石・・・というか・・・朝廷のジジイ共は本当に食えない。
特に自分の素顔を見て正気でいる奴は。

うーさまと別れた後鳳珠は悠舜の元を訪れた。
室の前に多数の吏部官吏が転がっていた。
何か悪いものをみたように唸っている。
この忙しい時に変な幻覚でも見たのだろうが・・・そう思いながら扉を開ける。

『・・・・・・・。』

確かに現実逃避したくなるような光景が目の前に広がっていた。
鳳珠は扉を閉める一歩手前で押しとどまり、中に入る。

「おや、鳳珠。いらっしゃい」

和やかな笑顔で迎えてくれる悠舜とは反対に恨みがましくこっちを睨んでくる黎深。
別に悪い事はしていないと思うのだが・・・。

「ここにいたのか黎深・・・」
「ふん、別に私がどこにいようと勝手だ」
「ふざけるな。貴様前で倒れている吏部官吏を見たか?」

つーんとそっぽを向く黎深に鳳珠は何か違和感を感じた。
扇で顔ほとんどを隠しているがなんか目が赤いような・・・。

「・・・どうした、黎深・・・?目が・・・・」
「うるさいっ!寄るな、触るな!」

そんな二人の様子を暖かい目で悠舜は見守った。
改めて王都に帰ってきた気がする。

「鳳珠やめてあげて下さい。黎深は・・・」
「悠舜言うな!」

焦る黎深が珍しく鳳珠も仮面の下でふと笑った。

「今笑っただろ」
「別に。」

鳳珠はしれっと黎深に返し、ついでに黎深の扇をとりあげた。
不意をつかれ、黎深がさらに焦る。

「なっ鳳・・・」
「悠舜。」

鳳珠の興味はすでに悠舜に移っていた。
黎深の扇をたたみ、仮面を取る。
そして机に乗りだし悠舜の顎を扇で上向きにさせ自分の方を向かせる。

「・・・なんでしょう?鳳珠・・・」
「何か私に言わなくてはならない事はないか?」

完璧な微笑を加え、鳳珠は悠舜に問う。
これをされてまともでいられる人はほんの一握りしかいないだろう。
流石の悠舜も相変わらず綺麗だな・・・と思ってしまったほどである。
性格もいいのにこれで嫁がいないなんて勿体ない・・・

「悠舜。」
「あぁ・・・久しぶりに近くで顔を見たので少し見とれてました」

その言葉に鳳珠の微笑は見事に崩れた。

「はぁ?鳳珠貴様悠舜に・・・」
「煩い」

黎深の前に扇を差し出し侵入を防いで鳳珠はもう一度悠舜に問う。

「私に言わなくてはいけない事は?」

悠舜の笑顔は崩れなかったが内心鋭いな・・・と思っていた。
鳳珠もしばらくみない間に成長している。

「まぁ・・・鳳珠も今暇そうですし焦る事はないでしょう。後に分かりますよ」
「暇だから仕事を入れておくんだ。そろそろ大波がくるんでな・・・」
「あぁ・・・なるほど・・・。
でも事後処理だけになると思いますし楽ですよ。多分」
「楽なわけ無かろう。
どっちかというと面倒ごとを押し付けられたようにしか思えない」

悠舜は苦笑していった。

「下手に動かない方がいいですよ。
もう御史台が動いてますから・・・」
「御史台・・・」

鳳珠は顎に手をあてた。
なるほど確かに動かない方がいいようだ。

「わかった。あとで教えてくれ。
あと黎深・・・吏部にを寄越して置いたから定時に帰らせるように」
「・・・本当に貴方は鬼畜といいますか・・・。
こういう日くらい休ませてあげればいいのに・・・」
から寄ってくる。
別に私は何もしていない」

その言葉に悠舜は、ほぅ・・・・と面白そうに笑った。

「・・・なんだ?」

鳳珠がこちらを睨む。

「いえ、微笑ましい事です。」

悠舜はにこにこと微笑みながらそれ以上は言わなかった。
黎深も私も結婚してしまって皮肉れていると思っていたのですが、案外そうでもないですねぇ・・・
悠舜の思った事に気づいたのか、鳳珠は不機嫌そうに睨み付ける。

「まぁまぁ、怒らずに。綺麗な顔が台無しですよ。
黎深、そろそろお茶にしましょうか。淹れてください」
「・・・なんで私が・・・」
「秀麗殿にカッコ良くお茶をいれてあげられたら素敵だと思うんですけどねぇ・・・・」

しゅぱっと茶筒を手に取る黎深に鳳珠は感心した。
手短な長椅子に腰掛け、足を組む。

「・・・私もこれからそうしよう・・・・」
「わざわざ淹れてあげていたんですか?
貴方は甘すぎますよ」
『・・・・・・・』

鬼畜の名は悠舜に返上しようと思った鳳珠である。
黎深の用意するお茶の香りが室内に漂ってきた。
悠舜は最後の書類に印を押して大きく腕を伸ばす。

「こちらに来るか?」
「あぁ、ではそうしましょう」

鳳珠が悠舜の車椅子を動かす。
奥方が作ったものらしいが、これは上手くできていると思う。

「・・・そういえば鳳珠。殿を吏部にやったといっていましたよね?」
「あぁ・・・そうだが?」
「雑用だけなら殿もこちらに来るはずなんですけど・・・。
朝から一度も見てませんよ?」

鳳珠は眉を潜めた。
確かにここに来るまでたくさんの官吏を見たがの姿はなかった。
いつもなら朝廷中を走り回っているはずなのだが・・・

「・・・確かに行くといっていたのだが・・・
まぁいいか・・・」
「いいんですか?」
「今日は休みだしな。
長官がそこにいるのだし、問題あるまい。
また変なことに首を突っ込んでいなければ・・・の話だが」

平凡に見えても山あり谷ありの人生だ。
重大な事件からどうでも良いことまでピンポイントで釣り上げてくる。
黎深が三人分の茶器を机に並べた。
茶も淹れたことがなさそうな黎深であるが、ここは完璧にこなしている。

「どうだっ!!
これで秀麗に素敵叔父様と呼んでもらえそうかっ!?」

目が輝いている。とてもパシられているなんて微塵も思っていなさそうだ。
悠舜は少し心が痛んだ。

「・・・えぇ、きっと秀麗殿もお喜びになられると思いますよ」
「その前に茶を淹れる機会があるかどうかの問題だがな」
「うるさい鳳珠!!」

ここで入ってきた吏部官吏がまたパタリと倒れた。

「・・・あ・・・仮面忘れた」

 
  

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