「・・・暗くなってきたな・・・」
「そうですね。そろそろ戻らなくてはいけませんね」

二人は仲良さ気に歩いている前の男女を見た。
あまりにも仲良さそうで声をかけにくいのだが、時間は時間だ。

「あの・・・主上」
「なんだ?」

キラキラ顔が輝き本当楽しそうだ。
隣にいるもなんだか幸せそうだ。
楸瑛は少し躊躇った。

「・・・あの・・・そろそろ鄭宰相とのお約束の時間だと思うのですが・・・」
「うぅ・・・もうそんな時間か・・・」

劉輝に耳と尻尾がついていたら勢い下がっているところであろう。

「残念ですが、今日はこの辺で・・・」
「・・・そうですか・・・・」

驚いたことにも劉輝と同じようにしょげている。
絳攸と楸瑛は意外な気がした。

「おや、殿寂しそうですね。
私は暇なので、よろしければこれからお相手しましょうか?」

の手をとり楸瑛が笑顔で顔を覗き込んだ。
絳攸と劉輝がくわっと食い下がる。

「この常春が。お前も帰るぞ」
「次言ったら承知しないぞ、楸瑛」

特に劉輝の声が本気だったので楸瑛は苦笑して手を離した。
はその光景に笑った。

「・・・お気遣いありがとうございます。
今日は少し秀麗ちゃんの家にも寄ってみようかと思いまして」

楸瑛と絳攸も一緒に行きたかったが劉輝の手前そんなこといえない。

「・・・送っていかなくても大丈夫ですか?」
「えぇ、まだ明るいですし大丈夫です。
では、この辺で」

は三人に礼をした。
劉輝が悲しそうに をみる。

「大丈夫ですよ。また会えますって」
「ほら主上・・・」

なんだか、犬と飼い主を引き離されたような心境になってきた。
劉輝の視線がとても悲しい。

胸の痛みを覚えながら劉輝達と別れ、 は近くの少路を曲がった。
そして人気がなくなったところで立ち止まる。

「さて・・・このままずっと見張っておられるつもりですか?」

は微笑して後ろを振り返った。
返事はない。
はすっと簪を抜いて後ろに投げた。
カツッと後ろの土壁に刺さる。
角から人が現れた。
両手をあげ降参したというようにこちらに向かってくる。
顔が頭巾で覆われていて男か女かさえ分からない。恐らく青年だろうが・・・

「・・・あの・・・何か・・・?」
「?だな」

声音が分からない。低くてよく聞き取りにくい。
悪い奴ではないことはなんとなく感じ取った。
はその問いに頷いた。

「・・・確かに普通の手段では渡しては貰えなさそうだな。」
「・・・何の話よ。
正体が分からないやつに何も渡せるはずが無いじゃない」
「御史台だ」

青年はの耳元で囁くように言った。
は男の言葉に目を見張った。

「・・・御史・・・台・・・?」

嫌な予感がした。
珀明も理由は分からないが切羽詰っていたし、贋作のことも贋金のこともある。
ただでさえ今官吏の大幅削除に向かって動き出しているというのに・・・・
ここで疑いをかけられるなんてことがあったらクビが飛ぶのも時間の問題じゃない。
に事の重大さを認識させたことを確認した青年が言った。

「・・・まず、その手に持っている贋金を渡してもらおう」

・・・贋金の方か・・・。
は大人しく胡蝶から貰った贋金を男に渡した。
怪しまれてこちらにも疑いをかけられたら大変だ。

「他には?」
「何もないです。ただ贋金が流れている事実を聞いたまで・・・
信じられなければどうぞお好きなだけ調べてくださいな」

次はが手を上げる番であった。
御史台とはなるべく関わってはいけない。本能がそういっていた。
青年はそこまで深く追求することはなく贋金を布に包んで懐にしまった。

「・・・二つ忠告しておく。
この事は誰にも洩らすな。・・・・黄鳳珠にでもだ」
「分かりました。このこと誰にもいいません。」

は内心舌打ちをした。
せっかくの情報が・・・

「あと・・・これ以上首を突っ込むな。
己の身を滅ぼすことになる」
「ご忠告・・・・感謝いたします」

は礼をとった。
御史台の青年は、角に入ったと思ったらふっと姿を消した。

『・・・・・。』

背中には嫌な汗が流れていた。
心臓がばくばくと早鐘を打っておりあれほど冷静にいられたのが嘘みたいだ。
御史台・・・
目をつけられたが最後、逃げられぬ完璧な証拠を突きつけられ死罪になったものは数知れず・・・
そして鳳珠がたまにぼやいていたことがある。
『・・・今の御史台・・・できるものなら一刻も早く壊滅させたい・・・』と。
何があったのかは知らないが相当恨みがこもっていた。
贋金・・・御史台・・・
もう、彼らは動き出しているというわけか。
これ以上自分が出る幕はない。

「はー、なんか無駄な精神力使ってしまったかも・・・。
とっとと秀麗ちゃんの家行こう・・・」

はその場を後にした。

周囲は薄暗く、街の明かりがともり始める。
は人で賑わう中心街を歩いていた。
御史台の青年に無駄な時間と精神力をとられてしまった。

「・・・あれ?蘇芳殿じゃない」
「おー、茈
奇遇だな。こんなところであるとは・・・」

一日中『タンタン』だったから久しぶりに自分の名前聞いたような気がする。
蘇芳が止まる様子が見えないので もそれにあわせて歩き出した。

「まぁ・・・今から秀麗ちゃんの家行くつもりだったし、必然では?」

の応えに蘇芳は苦笑した。

「お前頭良いな。流石四位及第。
紅秀麗にも敵わなかったし、あと家人にも・・・。
朝廷ってやっぱ凄いなー」
「・・・別に・・・。嫌味に言ったつもりはないですけれど・・・」
「いいよ。どうせ俺は官位を買ってもらったんだし・・・
お前のようにはいかないよ。
・・・いかないっつーか・・・いきたくないっつーか・・・」

いつの間にかは蘇芳と一緒に歩みを進めていた。
いつも本音をいう彼と話していると何か気分がいい。
朝廷ではこんな人間いないに等しい。

「確かに妙に頭が回るのも困りものよね・・・
出る杭は打たれるっていうか・・・なんというか・・・」
「お前らも大変だな。上目指してんだろ?
そーいや、あんたも相当なもんなんだろ?」
「何が?」
「イジメ。
官吏になってから二年だっけ・・・?お前まだ侍僮扱い。
しかも休日返上してまで、他部署の修羅場に借り出され・・・
お前死ぬまであの仮面上司にこき使われるぞ。」

自分の現状を言い当てられて胸にチクリときた。
確かに朝廷に入った当初から自分の立場は何一つ変わっていない。
これが普通なのかもしれないが、上にいけるだけの能力があるにとっては今の状態はじれったくてしょうがない。
蘇芳の方を向いた。
彼は全く悪いことを自覚していない。いつもと同じ顔でぼーっと歩いている。
は飾るのをやめにした。

「・・・そうかもね。
一生黄尚書の下で良いように扱われて官吏人生終わるかも・・・」

はぁ・・・とため息までつかれてしまい、蘇芳はぎょっとした。
冗談のつもりで言ったのにどうやら地雷を踏んでしまったよう・・・

「いや、別に落ち込ませるために言ったわけじゃないからな。
っていうかお前意外に秀麗と違って繊細なタイプ?硝子の心?」
「女の子は皆繊細なのよ!硝子の心なんだってば!
貴方絶対女にフラれ続けてたでしょ!」

同じ日に同じ事を言われるのには流石の蘇芳もグサリときた。

「・・・・なっ・・・何を根拠に・・・
・・・もういいや・・・」

これからは少し発言には気をつけてみよう。
人並みに結婚はしたいし・・・・
大通りを抜け閑散としてきた。
蘇芳が思い出したようにに問いかける。

「ねぇ・・・一つ聞いて良いか?」
「何?
答えられる範囲であればどうぞ。」
「何で、官吏になったんだ?
今も辛い思いはしてるんだろ?秀麗までとはいかないけどさ。
俺そういうのが信じられないんだよ」

は少し沈黙した。
拒否ではなく、答えを探しているようだ。
蘇芳はを見下ろしながら答えをまった。

「・・・皆同じものさしなんかで計れないわよ。
私と秀麗ちゃんは違う。貴方と私もね。私が官吏になったのは・・・・何でだと思う?」
「は?」

逆に問われて蘇芳は気の抜けた声を出してしまった。

「うーん・・・・。給料が良い?」
「だったらイジメどころが緩い全商連で働いてお金稼ぐわよ。
正直今より沢山のお金稼ぐ自信はあるから」
「上からの圧力」
「無い事も無いけどあまり気にしてないわ。辞める気もないし」
「国や国民への想い」
「残念ながら、それはあまりないかも・・・。
秀麗ちゃんみたいに良い子じゃないのよ、私。
そりゃ皆さんの税で私の給金支払われているから、できる限りのことはするけど」
「・・・好きな奴がいるとか・・・・」
「・・・違う・・・
あーでも・・・近い・・・かもね。いや、むしろ好きな人がいるから・・・かな・・・」

意外な答えに言った蘇芳の方が驚いた。
秀麗よりも綺麗だがどこか男気を感じさせるがそんな事を言うなんて意外だった。

「へへっ、乙女でしょ?」
「え・・・マジで?
好きな奴のために朝廷で死に掛けたりイジメにあったりしてんの?」
「そんな言い方ないでしょ・・・
私変人みたいじゃない・・・」
「・・・変人じゃん・・・十分に。」

蘇芳が笑った。
は珍しいと眺めてしまった。

「・・・なんだよ」
「いや、貴方って笑わないからさ・・・
珍しいな・・・って思って・・・」

蘇芳は頬に手をあてた。
・・・確かに・・・最近面白くないこと続きで笑ってないかもしれない。

「なんか違和感あるけどね・・・」
「なんだそれっ。
・・・っと・・・お前秀麗んち行くんだったよな」
「うん、それが・・・・。
・・・あ・・・」

気付けば周囲は知らないところだった。
の表情は一気に固まった。
・・・どうしよう。これじゃ秀麗どころか鳳珠様の家にすら帰れない。

「・・・ちなみにここ俺んち」

秀麗や鳳珠の家までとはいえないが、立派な家だった。
はほぅ・・・と眺めた。
・・・いや、俺んち、といわれても困るんですけど。
脳内で一人突っ込みを終え、はいった。

「・・・ねぇ・・・えっと・・・・」
「・・・なんだ?」
「帰り道分からなくなったからとりあえず朝廷までの道のりを教えてもらえる?」
「朝廷はあっち。ほら明るいとこ。この道真っ直ぐ行って適当に曲がれば知ってるとこ出るよ。多分」
「・・・あと・・・」

蘇芳は歯切れの悪いに首をかしげ、をみた。

「・・・晩御飯とか・・・ご馳走してもらってもいいですか・・・」

ぐぅ・・・とそのあとに悲しい音がなった。
蘇芳は何も言えなかった。
久しぶりにさんざんな一日だったが・・・
そのさんざんさは最後まで徹底してやがった・・・・。

「・・・分かったよ・・・。
別に何でもいいよな・・・」

文句を言う気力もなくし、蘇芳はを招き入れた。
庭を通ったがは何か違和感があった。

「・・・ここは・・・」
「どうかしたか?
あぁ・・・最近親父も庭の造形に凝りだしてよー。
何かすげぇことになってんの」

そうではない。
この家の庭をは言葉では表しようのないもやもや感がつもるばかりだ。
どこかで見たことあるような・・・

「ねぇ、私この家来た事無いわよね」
「多分な。親父はあんたみたいな若い娘連れてきた事無いし。
俺も同じ。庭はここ数年で造られたもんだしー・・・
・・・同じ庭みたことあんの?」
「あるような・・・無いような・・・」

蘇芳は足を進めた。

「そんなもん大体同じだって。
行くぞー。飯がそろそろくるはずだから」
「はーい」

空腹のせいでそ、のもやもや感は一気に消し去られた。

「ありがとうございました。
本当助かったー。秀麗ちゃんまでとは行かないけれど美味しかったわよ!」
「お前・・・それただ飯食っておいて言う台詞か・・・?」
「うっ・・・・とても美味しかったです」
「・・・もういいよ。
じゃ気をつけて帰んなよー。
変な奴に襲われたら俺もなんか罪悪感だから」
「・・・罪悪感感じても送ってはくれないんですね・・・・」
「うん、面倒だし」

この人絶対モテない。
そう決定したはそのまま礼をいい蘇芳邸をでた。
庭の方でなにか気配を感じたような気がするが気のせいだろう。

   

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析