昼の銅鑼が鳴り、昼休みとなった。
いつものようには珀明と落ち合い食堂の隅でいつものように談笑してた。

「そういえば、そろそろ秀麗ちゃん戻ってくるわねぇ」
「そうだな。あいつ今度こそ揉め事起こさずにいてくれればいいんだが・・・・」

それは無理なんじゃないかなぁ・・・と は内心思いながらおかずをつついた。
朝廷が今のままあり続ける限り、秀麗は揉め事を起こし続ける。
そういう性格なのだ。
それがまた・・・危なっかしくて面白いのだが。

「でもまた楽しくなるわね。
影月くんいないけど久しぶりに同期が揃うわけだし。
ここはいっちょ秀麗ちゃん復帰祝いでぱーっと何か美味しいもの食べに行かない?
珀明奢りで」
「なんで僕が・・・。
・・・まぁ僕の家なら出来なくもないけどな」

流石彩八家のお坊ちゃま。食べに行くまでもないと。
言葉とは裏腹に珀明は乗り気のようだ。
これは美味しいものを食べられるに違いない。

「聞きましたか?」

ごくありふれた会話が食堂内にあふれ出す。
何気なく会話しているようでも、や珀明はその会話一つ一つを出来るだけ慎重に聞いていた。
噂話がどこで役に立つか分からない。
昔から自分の身が危なかったは勿論、朝廷に入ってから魯尚書のしごきを受け珀明もそのことに勘付いていた。

「どうやら門下省長官が冗官の一斉削除に踏み切ったようですよ?」
「えぇ、鄭宰相もそれを認めたって話ですね。
私達もぼやぼやしてたら一気に首を切られるでしょうな。気をつけなければ」
『・・・・っ!?』

は飲んでいたお茶を吐きそうになり、珀明も食べ物を喉に詰まらせてむせた。

・・・・なんですとっ!?

冗官といえば今秀麗のいる位置。ついでにいえば先日助けたばかりの蘇芳もいる。
確かに冗官のほとんどが下級貴族のボンボンで特に国のため朝廷のためという人ではない。
でもそれには賛成だ。
しかし問題は今の時期に、それも秀麗が冗官になってからこのような意見が出るとは明らかに狙ったものとしか考えられない。

「・・・一斉削除・・・?
じゃあ秀麗は・・・」
「鄭補佐が賛成しているんだったら、今すぐに削除ってわけではないと思うわ。
多分・・・様子見して、それで使えなかったら削除ってところかしら。
秀麗ちゃんなら頭良いし要領がいいから大丈夫よ」
「・・・どうしてそんなことが分かる?」
「上層部のお人柄と、やっぱりここで女性官吏を潰してはいけないという意思・・・じゃないかしら?
少なくとも秀麗ちゃんを失うのは朝廷として痛いと思うし・・・」

は目を細めて無言で前を見つめた。
これは少し危ないかもしれない。
は小椀に残っているお茶を全て飲み干した。

「珀明、ちょっと早いけど私は戻るわ」
「・・・あぁ・・・。
仕事か?」
「また新しい仕事が入ったみたいなのよ」

はお盆を片付けて戸部へ向かった。
今の時間、多分鳳珠はいるはずだ。


かかる雲は暗雲の
〜晴れ時々・・・〜


「失礼します。茈です」

戸部に戻った はその足で尚書室へ入った。
中には鳳珠が柚梨と一緒にお茶を飲んでいた。
香ばしい薫りが室内に漂っている。

「どうしましたか?くん」

柚梨がお茶を淹れながら話かけてきた。

「・・・その・・・冗官の一斉退官という噂を聞いたのですが・・・」

鳳珠と柚梨の手が止まった。
やはり本当らしい。
しかし、二人の動揺もすぐに収まった。

「あぁ、それなら大丈夫だ。
一ヶ月の猶予がある。あの娘ならそれくらい気付いて行動するだろう」

鳳珠の言葉に もとりあえず安心した。
大体予想通りだ。
秀麗には紅家の力なぞなくても無駄にコネが多い。

確かにどうとでもなりそうだ。


「では・・・戸部に引き入れますかこの際。
秀麗くんから入れてくださいとくれば吏部尚書も文句はないでしょう」

柚梨の提案に鳳珠とはあっ、と柚梨の顔を見た。

「・・・確かにそうだな。
秀麗が来てくれれば更に仕事がはかどりそうだ・・・」

がばりばり働いているせいでこの部署の女性官吏への偏見は無いに等しくなった。
秀麗も鳳珠付きで働いていた時期もあるし、すぐに馴染めるだろう。

「ただ問題は黎深様の出現率があがるという事ですが・・・・」
「・・・秀麗くんがきて能率があがるが、次に鳳珠が仕事できなくなりますね」
「秀麗ちゃんが部署内にいればまず戸部に入って来れないと思います」
「黎深避けも兼ねるのか・・・。ますます欲しい人材だな」

これは良い、と三人は頷いた。

「おそらく秀麗の謹慎明けに通達が行くだろう。

「はい」

鳳珠の呼びかけには姿勢を正す。

「初日に冗官で使えそうな奴を何人か見繕って来い。
使えそうな奴がいたら秀麗と共に戸部にいれる。良いな。
それでなくても雑用が数人欲しい。適当につれて来い」

冗官だしあまり期待していないが、もしかすると掘り出し物が見つかるかもしれない。
は一礼した。

「御意に」

鳳珠は一拍おいてから柚梨を見た。

「少し に話があるが・・・・いいか?」

柚梨は何かを察して頷いた。


「では、お邪魔虫は退散しますのでごゆるりと」

「柚梨」


鳳珠は仮面越しに柚梨を睨み、 は視線を泳がせた。

二人の反応に満足したのか柚梨はそそくさと退出していった。

しんとなった室内に鳳珠の置いた茶器の音が静かに響いた。


「さて・・・冗官の件で分かると思うが・・・
女性官吏を廃止させようとしている輩がいる」

「そうでしょうね・・・。馬鹿でも分かる感じに時期と政策が連なってますから・・・」
も・・・ないと思うがここで落とされたら危ないな」
「落とされても鳳珠様・・・拾ってくださいますよ・・・・ね?」

鳳珠が黙った。仮面をしているので何を考えているかさっぱり読めない。
は急に不安になった。
このまま見放されたら・・・つては色々あるが今後鳳珠と顔があわせにくい。
未来を想像して目の前が真っ暗になる。

「・・・あの・・・」

本気で泣きそうなに鳳珠は肩を震わせながら笑った。
・・・面白い。

「・・・ふふっ、大丈夫だ。拾ってやる。
私の手元にあるうちは護ると約束した」
「本当ですか?」
「本当だ。
・・・一応聞いておくが・・・今のところ何も問題は起こしていないよな。
吏部をサボった以外に・・・
・・・そういえば何故吏部の仕事をサボった?」
「え・・・・」

そういえばあの二日間のうちに色んなことがあった。
贋作、贋金、御史台、碧幽谷・・・・
どれも秘密にしておかなければならない事項である。

『・・・このことは誰にも洩らすな、黄鳳珠にでもだ』

御史台官吏の言葉が脳裏に響く。
どこまで秘密にして良いものなのか分からない。
ここは全て隠しておくべきか・・・

「その・・・ちょっと友人に人探しを頼まれまして・・・二日間かけて探しておりました」

「ほぅ・・・私の命よりその友人とやらの方が大切か」


は咄嗟に言葉が出なかった。

珀明の人探しを手伝おうとしたことは後悔していない。

が、それは何度も忠告をされてきた鳳珠への裏切りともなる。

信用を失うようなことはするな。
一度失くした信用は戻すことは難しく、官位が離れれば離れるほど鳳珠達と関わりにくくなる。
どんなに助けたくても手が伸ばせないところにいては、助けられない。
はぎゅっと拳を強く握った。

「・・・軽率な行動をしてしまったと思います・・・」
「別に責めている訳ではないが・・・時期が時期だな。
何もなかったのならばそれでいい。
しかしお前の場合そうもいかんだろう・・・・。違うか?」

は鳳珠と目が合わせられなかった。
全くもってその通りでございます。
秀麗が揉め事に突っ込んでいく性質であれば、 は揉め事に巻き込まれる性質である。
否応無しに向こうからやってくるのだから仕方ない。

鳳珠はの様子をみて、明らかに何かに巻き込まれたことを悟った。
何もなければも胸を張って言い訳をしているであろう。
それがないということは・・・。

「・・・・・・何かあったな」
「・・・・・・。」

答えは沈黙。
鳳珠は仮面の内で嘆息した。
何もなければ良いが・・・・

「分かった。さがっていい。
休憩が終わったら顔を出してくれ。
そこにたまっている書類全て他の部署に回すものだ」
「・・・失礼しました」

は尚書室を出てから頭を抱えた。
本当馬鹿だーっっ。。
この時期に、御史台に、しかも蘇芳の件にまで関わったなんて口が裂けても言えないというか・・・。
とにかく御史台と関わりを持ってしまったことになる。
あとで秀麗に聞いたがあの蘇芳の家に来ていたのも御史台・・・あの若い出世組の青年も御史台・・・
嫌な予感が胸に渦巻く。

どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・

とにかく冗官の選定が終わるまでの一ヶ月間。大人しくしているしか道はない。
手始めに、魔よけのおまもりを買ってこよう・・・。そうは思った。
できることから確実に・・・。

を退出させてから鳳珠は一人外を見た。
あの様子では何かヤバいことに巻き込まれていそうだ。
吏部に行くといって、出て行ってから友人に頼まれ人探し・・・。
友人と言うのは碧珀明で間違いない。
碧で丁度あの日王達も碧幽谷を探していたと言うから、探し人は碧幽谷。
そういえば、噂で御史台が密かに動いているという話も聞いた。
何に、とまでは知らないが、最悪と御史台が顔を合わせているとしたら・・・・。

・・・これは少しまずいことになった。

の身の上の事はとりあえず霄太師に任せてある。
もし の事を調べられていたらどうなるのだろう。出てくる事実など皆無に等しい。
あるとすれば、国試の時は霄太師のでっちあげた履歴書と、これもでっち上げた監査書類。
あとは国家機密の資料と、縹家くらいしか過去の を証明するものは一つもない。
数年半前から街に出始めた時の の記録。それしかない。
今回霄太師が上手くごまかしてくれるかどうかは定かではない。
あの時は誤魔化せたが今回は上手くいくか・・・。
鳳珠はにわかに頭痛を感じた。
御史台と言えば・・・
鳳珠は各部署から回ってきた決算の見積書を見た。
その中から御史台の文を見る。
長官のところに気に食わない印が押してあり、眉を潜めた。
直接関われない部署で、お金を何に使ったまでは書いていない御史台の見積書だが、長年やっていればなんとなく使い道も見えてくるものだ。
先月分と見比べる。

「・・・何か一、二件・・・最近派手にやっている・・・か。
少し調べてみる価値はありそうだ」

秘密裏に動ける覆面官吏がいる黎深が羨ましくなった。
戸部はそういう部署ではないので覆面官吏はいない。
不正があったら、自分達の手で見つけなければいけない。
その際、をさり気なく遣わせていたが、今回そのも駄目・・・。
すぐに答えが知りたかったが、手詰まりだ。自分が派手に動くわけにもいかない。

「しばらく様子見か・・・・」

桜がそろそろ咲く季節に、新たな物語が始まった。

   

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