「さーて。
ぞくぞく入ってきたわね」

は朝廷の窓枠に腰掛けながら、今日入ってきた冗官達を見下ろした。
ほとんどが貴族のお坊ちゃまで半分目が寝ている。
とりあえず、クビを告知されたので出仕して様子を見ておこうという具合だろう。
目ぼしい人材が中々見つからない。

やはり乗り込んで直接自分の目で見るしかないか・・・。
秀麗は必ず出仕してくるはずだし、恐らく蘇芳もいる。
似たもの同士はそれぞれ固まるはずだから秀麗の周辺を洗っていけば少しはマシな発掘があるかもしれない。
・・・ちょっと秀麗を利用するようだけど、それも詮無きこと・・・。
戸部の人材不足は今に始まったことではないのだ。
陣中見舞いも用意してきたし・・・・
今日の昼くらいがいいかなー。
は一日の段取りを組み、戸部へ戻った。

そして昼休み。
大きな重箱をもって、冗官達のいる室へ向かった。
記憶によればあの室はほとんど使われてなくて物置状態だったと思う。
は重箱の隙間から前を見た。
何故か絳攸がいる。また迷ったのであろうか・・・・

「あっ、。」

秀麗の声がした。角度をずらしてみると秀麗が見えた。
なんだ、話していたのか・・・。

「久しぶりね。秀麗ちゃん」

は重箱を置いた。

「どう?久しぶりの朝廷は・・・」
「・・・なんか・・・・もう返す言葉もないわよ。信じられないわ、この中・・・。
精神力全て吸い取られたみたい・・・」
「見たところ片付けていたみたいだけど」
「まぁ大体ね」

秀麗の表情は疲労の中でもすがすがしさがあった。よほど汚かったのだろう。
仲良く話している と秀麗をみて絳攸が苦笑した。

「じゃあ俺はこれで・・・。
考えておいてくれよ、秀麗」
「そうですね、考えておきます」

二人のやり取りに、 の目が光った。
周囲に誰もいないことを確認して絳攸の腕を掴んだ。

「抜け駆けは許しませんよ、絳攸様。
秀麗ちゃんは戸部がもらいますっ!
仕事サボるしょうがない尚書さんより、仮面でも性格かっこいい男気のあって仕事もできる尚書の下で働く方がいいわよね!」

素顔はなお良し★

「・・・・・っ」

そこは訂正しておくべきだったが、絳攸は何も言えなかった。
本当にしょうがない尚書で泣きたくなる。
先日もやっと修羅場があけたというのにまたサボり気味・・・というか秀麗がいるのできっと変質者(ストーカー)になりさがるだろう。

実際秀麗は鳳珠の下で働いたことがあるし、秀麗自身も尊敬している。
大して黎深は、顔も名前も知られてないただ、ひと夏にであった「(変な)おじさん」
この差は大きすぎる・・・。
絳攸は周囲を伺ったが、流石に黎深の気配はなかった。
そういえば、鄭宰相に呼ばれていたかもしれないからそちらにいっているだろう。
絳攸は心底安心とした。

・・・そろそろ離せ。
・・・そういえば仕事任されていたことを思い出した・・・。
後で手伝いに来い・・・」

は、何となく背後関係に気付き絳攸に同情した。

「・・・はい・・・。喜んで・・・」

絳攸と別れは掃除したての室に入った。
まだ埃っぽさは残っているが、以前の状態に比べてまだマシになったのだろう。
中には大量の冗官達が休憩していた。
ほとんどの視線が に注いだ。何か痛い。
女性官吏の身でありながら今回のクビ対象にも含まれていない上、今は朝廷内のイジメにもあっていない。
それどころか、六部での評価が段々上がってきているというではないか。
自然とへの恨みの念が積もる。
は大きく深呼吸し、にこりと笑顔をみせた。

「あのーっ差し入れとか持ってきたのですが・・・いかがでしょう?」

は重箱をどんと置いた。
中にはほくほくの肉まんが入っている。
掃除に疲れた冗官達は一気にそれに飛びついた。
ふっ、金持ちのぼんぼんなんて物をやればすぐに飛びつくのよ・・・。

これも計算済み。
は奥の方でこちらの様子を観察している蘇芳を見つけた。
隣には、にこにこと微笑んでいる三十代の男性、と同じ歳くらいの青年が一人。
は瞬時に二人が別格の人間だと悟った。
一人は明らかに育ちの良さそうな好青年。多分頭もそれなりにありそうだ。
もう一人は、田舎くささが抜けていないが真面目そうである。
戸部の雑用に無駄な知能はなくても良い。
ただ、真面目さと体力があれば何とかできる仕事だ。後は慣れ。
・・・鳳珠様・・・早速目星つけました・・・ッ。
近日中に戸部へお連れします!!
は、箱から五人分の肉まんを取り出し、蘇芳の元へ行った。

「はい、どうぞ。掃除お疲れ様。
今お茶淹れるから先食べちゃってください」
「・・・何その気遣い。君らしくもない・・・」

蘇芳が肉まんを頬張りながら言う。
は熱湯をわざと一滴飛ばした。

「・・・あつぅッッッ!!!」
「・・・あら、飛びました?
ごめんなさいね、蘇芳殿」

完璧な笑顔で謝られた蘇芳は『女って怖ぇ〜』と再認識した。
内面から出る黒さと、妙な小細工が上手い分の方が数倍おっかない。

「はい、食べてください」
「ありがとうございます。えっと・・・?さん?」

同じ歳くらいの青年が笑顔で肉まんを受け取った。

「はい、えっと・・・」
「陸清雅です。よろしく」

・・・陸・・・?
は清雅を見た。陸といえば、旧紫家四家の一つ。多分清雅の父辺りは も小さい頃に間接的であるが見ているはずである。
今では大分名が薄れてきたといえ、陸家の人間が冗官にいるということはありえない。
たとえ仕事してなくても、冗官になんてならないと思うのだが・・・
の表情で考えることを察したのか清雅は苦笑した。

「ちょっと変わり者の上司に落とされちゃいまして・・・。
悪い時期に冗官になったものです。まぁ後で拾ってくれると思いますが・・・」

それを聞いて納得した。
でも、陸家の者を冗官にするなんて大した度胸のある上司だ。
そう思い、はすぐに否定した。
身分どうこうではなく、使える使えないで官位を落とす上司をいくらでも知っている。
例えば、うちの長官とか、吏部の長官とか・・・。
他にも難しい人はいくらでも知っている。今となれば珍しいことでもないか。

「それは・・・大変ですね」
「えぇ、まぁ今回は今回で楽しませてもらいますけどね。
秀麗さんにも会えましたし・・・貴方にも・・・」

お茶を淹れていた は最後の言葉に手を止めた。

「え・・・?」
「上位で、しかも女性で合格したなんて興味がないわけがないじゃないですか。
貴方はよく見かけますが、話す機会なんてないですし・・・
忙しそうですから話しかけるのも申し訳ない気がして・・・」

そういうことか・・・。
今まで冷たい対応しかされなかったので、全が否定的に見ていると思っていた。

「そうですね。陸家の方と知り合いになれる機会なんて滅多にないですし・・・
こちらこそよろしくお願いします」
「・・・へぇ・・・清雅サンってそーやって女の子落とすんだー。
さり気なくて参考になるわー」

皿に乗った肉まんに手を伸ばし、蘇芳が言う。

「なっ・・・別に僕はそんなつもりでは・・・」

清雅は目をそらしながら否定する。 は蘇芳の手をペシっと叩く。

「これは、彼の分。さっきあげたでしょ。
欲しかったら向こうの取ってくること。
この人の言うこと気にしないでいいですよ、清雅殿」

大体蘇芳の性格もつかめてきたため、 は扱い方に慣れつつある。
蘇芳は叩かれた手を撫でながら文句を垂れた。

「多分ねーよ。
貴族の坊ちゃん達が女のコの手作り肉まんなんて食べる機会滅多にないし、もう空」
「・・・そうなの?」
「あれ?君も純粋ちゃん?」
「・・・何のこと?」

は清雅の隣にいる青年に肉まんを渡しながらこたえる。

「あぁ、ありがとうございます」

清雅の隣で大人しそうにしていた青年が嬉しそうに肉まんを受け取った。
訛りがあるが、それが人が良さそうな雰囲気をかもし出す。

「お口に合えば良いのですが・・・」
「美味しいですよ。」

は青年をじっと見つめた。清雅と違ってどこかで見かけたような気がする。
思い出せないが・・・。

「私の顔になにかついてます?
あっ、名乗り遅れましたね。私は楊修と言います」
「楊修殿ですか、・・・なんでしょう?どこかで見かけたことがあるような・・・」

は首を捻る。
何とか残っていたらしい肉まんを取って戻ってきた蘇芳が会話に混じった。

「うわー、清雅クンずっと見ていたのに可哀想ー」
「だから、そのようなつもりで見ていたわけではないですから」

蘇芳と清雅の会話に苦笑して、楊修は言った。

「私も朝廷どこでもちょろちょろしているのですれ違う機会が多かったのかもしれませんねー。
よく貴方みかけますし」
「そう・・・かもしれませんね」

その時、秀麗がまとめ終えた春画本をドスンと床に置いた。

「終わった・・・これで全部・・・」
「お疲れ様。
私が作ってきたんだけど、よろしければ肉まんどうぞ」
「うわぁ・・・・ありがとう」

秀麗もの隣に座る。秀麗にお茶を淹れながらは秀麗の持ってきたものに目がいった。

「あれ?これって・・・」

言葉より先に手が伸びた。
捲ろうとする に秀麗は息を呑み、蘇芳はどんな反応するか気になるのであえて何も言わない。
清雅と、楊修も止めようかどうしようか一瞬ためらってしまった。
誰かが突っ込む前に、はと本を開いた。
中にある、なまめかしい女体を見て は目を細めた。
一同言葉を発すことなく、の行動を見守った。
はどんどん頁を捲り中身を一瞥してパタンと本を閉じた。
妙に気まずい沈黙がその場におりた。

「・・・ふーん・・・」
「へぇ、どう?」

蘇芳がきいてみる。秀麗ほど面白い反応はこの分では期待できなさそうだ。
純粋そうだったがそうでもなかった。

「・・・別に?こんなもんじゃない?
どこが面白いか分からないけど・・・」
「男にとっては面白いんだよ」
「絶対おかしいと思うわよね!!」

秀麗の剣幕に押されながら は返答に困った。

「うーん・・・そうねぇ・・・。
分からなくもないけど、別になくてもいいとは思うけど・・・」

の意見に蘇芳が口を出した。

「男には必須なの。
タケノコ家人とか・・・あぁ、君の上司だって絶対持ってるって。
独身だし・・・特に恋愛関係の噂ないし・・・・
そう思わない?」

思わない?と話を振られても・・・・
清雅と楊修は視線をそらした。
一方 はびしりと音をたてて固まった。
・・・兄上が・・・?鳳珠様が・・・?

「だから、静蘭は持ってないって言ってるでしょっ!!
黄尚書だって・・・持って・・・ないと思うけど・・・
・・・?」

急に動かなくなった友人の肩を秀麗は軽く押さえた。
の手からするりと桃色草子が落ちる。
何事かとに視線は集まった。
軽く眩暈を覚えた。
ありえない・・・絶対ない・・・そんなことない・・・はずだ・・・
室を掃除したこともあるけど、出てくるのは難しい本ばかりでこんな・・・こんな春画なんて一つも・・・っ。
顔が綺麗だからこんなの見ても面白くないと思ってたけど・・・いや、やっぱり興味あるの・・・?
考えてみれば妓楼とかも全く行かないし、特に意中の人がいるってわけでもないし、それどころか室に誰も近づけようとしないし・・・
え・・・やっぱり持ってる?いや、そんなはずは・・・でもあの家全て見てきたわけじゃないし・・・一冊でも・・・・

よく分からなくなってきた。

「あの ?ねぇ大丈夫?」
「え、やっぱり持ってたりするの?
あの人よく分かんないから結構気になるんだけど・・・」

ここは弁解しないといけないと、 の回復したての脳が反射的に動いた。

「もっ、持ってるわけないでしょっ!!
変な仮面ならともかく、春画本は絶対ない。
本当こんなこと言ったらぶっ飛ばすわよ!」
「・・・ごめんなさい」

『ぶっ飛ばす』の単語に冗談を感じられなかった蘇芳は心から謝った。
・・・ってか仮面は否定しないんだ。
蘇芳はここで大体の結論を出した。
は表も裏も世間一般常識は心得ているが、好意を持っている人に対しては夢見すぎ・・・っと。

「全く女ってもんは・・・妙なところで夢みてるんだからな・・・」
「事実を言ったまでよっ。じゃあ蘇芳持ってるの」
「うん。」

即答され、は続く言葉につまる。

「えっと・・・じゃあ清雅殿は持ってないわよね!!」
「持ってませんよ」
「ですよね!ちなみに楊修殿は・・・」
「ふふ、それは秘密です」
「・・・ぜってー持ってる。賭けてもいい」
「持ってませんよね!」
「・・・って言うかこの話題やめない?
精神的に疲労がどんどん溜まるんだけど・・・」

今日色んな事実を知った秀麗は、かなり応えたらしい。
まぁ、あの家人と周囲の人が豪華すぎてそんなこと考えもしなかったんだろうけど・・・
一同秀麗の様子を見て、この話題はお開きにした。

「それにしてもごみ多いわね。
よく片付いたと思うわ」
「秀麗さんの指示があってこそですよ」
「春画本にお酒・・・
・・・へぇ・・・酒屋でもないのに何故か相当の種類が揃ってるんですけど」

酒瓶を持って銘柄を見るに蘇芳が訪ねた。

「ふーん、ってお酒いけるクチ?」
「えぇ・・・飲めるわよー。
この中の全員と勝負しても勝つ自信あるわよー」

その言葉に蘇芳達男三人は顔を見合わせた。
もしかして秀麗の噂についていた尾ひれって・・・

「ねぇ、もしかしなくても管尚書と飲み比べしたことある?」
「うん、豊穣祭の飲み会で。お酒は飲みすぎるもんじゃないわね。
仙美酒飲んだ後の記憶がなくなっちゃって・・・。
その後から工部でも羽林軍からでも飲み比べの果たし状がたくさんきて本当参ったわ・・・」

・・・仙美酒・・・?
仙人が好んで飲むと言う最高級の酒。
まろやかな口当たり、だが茅炎白酒以上の高濃度酒。
決して人間が飲んではいけないと言われる幻の銘酒だ。
そんなものがあること事態驚きだが、それを飲んで生きているとは・・・。
のおっかなさを再認識した蘇芳であった。
多分秀麗の噂と の噂がごちゃごちゃになっていたのだろう。
どこかから銅鑼の音が聞こえた。

「では、私はこれで・・・
皆さん午後からも頑張って」

は室を後にした。
陸清雅と楊修。あとやる気がありそうだったら蘇芳も引っ張ってくるか・・・
ざっと見渡してみた限りとりあえず使えそうな人はそれくらいだ。
秀麗の性格ならもしかしたらあのぐうたら貴族管理の世話もしているかもしれない。
それなら、勧誘側のこちらもやりやすいのだが・・・・
は視線を感じて、振り返った。

「・・・・?」

贋金の件で御史台に会ってから妙な視線を感じるのは気のせいだろうか。
首をかしげながらは戸部に向かって歩き出した。

   

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