いつまであの空間にいられるか
山に沈む夕日を見ていると、自分に残された時間のように思われて
あぁ、光がどんどん消えていく・・・・

「・・・藍将軍・・・・?」

日も落ちかかり空が蒼く染まってきた頃、は回廊によりかかり夕日を眺めている楸瑛を見つけた。
に気付き、楸瑛が苦笑する。

「銅鑼はもうなっているはずですが・・・まだ仕事は終わりませんか?
黄尚書もお厳しい方だ」

楸瑛の視線を感じ、も抱えている書簡の山を見つめ苦笑した。
確かにこれだけ抱えていれば男も引くはずだ。

「いえ、私が好きでやっていることですから。
明日からは吏部にいかなければならないので少しでも減らしておかないと・・・」

辛い顔もせず微笑むに、楸瑛はつられて笑ってしまった。
大切な人を一途に思うところは劉輝に似ているような気がする。
の出生に感づいてからますます静蘭や劉輝と重ねてみてしまう自分がいた。
先ほど別れてきたばかりの劉輝の顔を思い出して少し胸が痛んだ。

「・・・そんなに働くと体を壊してしまいますよ」
「大丈夫です。寝れば体力回復してますから。私若いし。
それに・・・体なんか壊すとまた黄尚書に怒られますしねぇ・・・」
「倒れた時は私が看病してあげますよ」
「うふふ、看病よりも私の変わりに黄尚書のところいってくださりません?
助かりますー」

楸瑛は両手を挙げた。

「それは勘弁です。
流石に私とてあの方の下で働くとなれば半日も持ちませんよ」
「良い経験になりますよ〜。
藍将軍とまでなれば人からこき使われるなんて経験なさそうですから・・・」
「・・・そうだね」

藍州に戻るとなればもう兄以外の上からとやかく言われることなんてなくなるのだろう。
寡黙な上司もいない。龍蓮よりも可愛らしい弟のような王もいない。
からかって遊べる同僚もいない。会うたびにヒヤリとさせられる元公子もいない。
いつも元気にさせてくれる少女もいなければ、目の前の不思議な気持ちにさせられる・・・・

「・・・藍将軍?」

の声に楸瑛は我に返った。

「・・・あぁ・・・すまない。
少しぼぅっとしていた・・」
「大丈夫ですか、ご気分が優れないのでは・・・?」
「大丈夫だよ。
少し考え事をしていてね・・・。
あっ・・・その殿に頼みたいことがあるのですが聞いていただけますか・・・」
「・・・えぇ、私にできることであれば・・・」

楸瑛が頼みごとなんて珍しい。そう思いながらは頷いた。

「しばらく、休みをいただいたので朝廷に出仕しないのですよ。
ですから・・・お暇な時にさり気なく主上の傍にいてあげてくださいませんか?
今絳攸も出払っていてきっと寂しいのではないかと思いましてね」

楸瑛の寂しそうな表情には裏に何かある事を悟った。
何か・・・これから嫌なことが起こる。
直感が警告を出している。

「・・・では、私はこれで・・・」
「・・・待って・・・・ッ」

は離れていく楸瑛の着物の袖を反射的につかんだ。
楸瑛に影が差している。このままいかせてしまうと二度と戻ってこないようなそんな感覚に囚われた。
の持っていた書簡が全て落ちる。

「・・・・・・・殿?」
「・・・いっては・・・なりません・・・」

思いがけないの行動に楸瑛は目を丸くした。
は楸瑛の手首を力強く握った。

「・・・駄目です・・・いかないで・・・
お願いですから・・・」

はガクリと膝を突いた。
自分でも何故こんな行動に出たのか説明がつかない。
こんなに辛いのは何故だろう。
こんなにも胸が苦しくなるのは・・・・何故?

「どうしました?殿・・・」

楸瑛が膝を突いての頬に触れた。
自然と涙が零れてくる。

「どうしましたか、私と離れるのが辛いですか?」

楸瑛の冗談交じりの一言で、も段々落ち着いてきた。
そして自分の咄嗟にとった行動に心の中で首を傾げる。

「・・・あれ?」
「・・・涙は収まりましたか?」
「はい・・・。
・・・なんで泣いてるんだろ・・・」
「寂しいのは私もですが・・・・
ちょっと休むだけですよ。またすぐに戻ってきます」

本当に戻ってこられるのだろうか。
自分で言った言葉が胸に刺さる。

「・・・そっ、そうですよね。
その・・・主上は寂しがり屋ですから・・・きっと絳攸様も藍将軍もいないと部屋の隅でいじけておられます。
早く戻ってきてくださいね」
「・・・えぇ・・・そのつもりですよ」

は落とした書簡を拾い始めた。楸瑛もそれを手伝う。
拾ってみて思うのだが、よくもまぁ小さい体でこんなにたくさんの書簡を運べるものだ。
今更ながら感心する。

「ありがとうございました。
お休み有意義につかってくださいね」
「はい。ではこれで・・・」

は楸瑛に礼をして歩き出した。

『・・・あの方を見捨てないで・・・・』

不意に楸瑛の耳にの声が聞こえた。
反射的に楸瑛は振り返った。
は回廊の角を曲がろうとしているところであった。

「・・・・・・・」

これが、の言葉なのか・・・それとも自分自信が作り上げた幻聴なのか・・・
それは楸瑛にも分からない。
ただ罪悪感だけが強く残った。
脳裏にあるのは別れ際の劉輝の笑顔。
ふと見上げると、夕日は既に沈んだあとで空は闇に染まっていった。


最後に府庫に書簡を届けに行ったは視界から消えた影を見た。

「・・・・え・・・・・」

幽霊・・・?
なんか白かったし・・・小さかったし・・・・
この朝廷に子供なんているわけがない。
そういえば、府庫って出るんだっけ・・・そんな噂聞いたことあるし・・・

・・・マジかよ・・・

その時幽霊が消えたところからひょこりと白いものが顔を出した。

「・・・ひゃっ・・・」

はビクッと飛び上がり思わず腰の短剣と扇を掴む。
・・・戦ってみたところで幽霊には敵わないことは後に気付いたが。
幽霊はの顔をじっと見つめ、全身を見せた。
まだ小さい・・・・十歳くらいの少年だ。
髪は白く瞳は黒。
子供、と断定はできるが、表情が抜け落ちていた。
しばらく見詰め合っていたが子供の方が先に口を開いた。

「へぇ・・・あんたが『闇姫』か・・・」

瞬時に璃桜を思い出し、は目を細めた。

「縹家の・・・何しに来たのっ」

子供でも侮れない。
は神経を研ぎ澄ました。

「そんな殺気立たなくても何もしない。
父上から『王とお茶してこい』って言われただけだから。
あと面倒な仕事押し付けられたんだけど・・・まぁそれはいいとして」
「・・・主上に何するつもりよ」
「何も。ただお茶するだけ。
しばらく薔薇姫にもあんたにも王関わるつもりないから安心して。
多分・・・縹家の動く時はそれなりに大掛かりになると思うから・・・」
「・・・そうなの・・・?」
「分かったならとっとその短剣と扇に伸びている手を下ろして。
息もつけやしない・・・」

年齢のわりに大人びた発言をする少年には少し興味を持った。

「ねぇ、名前は?
どうやってここまで入ったの?」
「あんた、無害と分かると急に丸くなるな・・・」
「しょうがないでしょ。
正月は璃桜・・・殿のせいで散々だったんだから・・・」
「ふーん・・・父上にも会ってたのか」
「・・・父?」
「縹璃桜。縹家当主のことだろ
確かあんたの母も父上の娘だっけ・・・」
「えっ、じゃあ貴方私の叔父さん?」
「・・・おじ・・・・」

確かにそうなるかもしれないがなんかにいわれると何か嫌だ。
これ以上一緒にいると面倒くさそうなことになりそうなのでリオウはさっさとを出て行かせることにした。

「お前まだ仕事の途中だろ。
いいのか、こんなところで油売ってて・・・」
「あっ、そうでした・・・。
まだここにいるんでしょ?遊びに来るから。
・・・またね!えっと・・・名前聞いてない」

リオウは少し黙った。
父と同じ名前だからやはり驚かれるだろうか。
同情とかそういうのはうけたくないから、あまり言いたくない。

「どうしたの?」
「・・・・リオウ」
「え?」
「リオウだ。俺の名前・・・正確には違うけど・・・」

・・・・・。
何か事情がありそうだ。
はそれ以上問わないことにした。

「じゃあ、リオウまた来るからね」
「・・・・別に良いよ」

手を振って府庫を出るをみてリオウが言った。
忠告くらいはしても良さそうだ。
今力が解放されては縹家としても不本意なことになる。多分。

「ねぇ、あんた・・・」
「何?」
「あまり、物事を深く考えたり、本気にならない方が良い。」
「・・・・え?」

何のことか理解できなかった。

「『闇姫』の力が少し出てきている。
忘れるな、お前は異能の力を持っている。
それが『闇姫』の力と共に形となって出てきている。
制御できなければ・・・不本意な結果に終わるぞ。」

「・・・・えっ」

異能の力・・・・?
徒人から生まれた春姫にも異能の力は現れていた。
縹家の血が流れているだけでも、その異能の力は受け継がれる・・・。

「みたところ害はなさそうだが、気をつけたほうが良い」

そういって、リオウは本棚の向こうへいってしまった。
心配してくれたのかな?
無愛想だが、憎めないリオウには苦笑した。
また遊びにきてやろう。
大人ばかりだと何かとつまらないだろうから。

誰もいなくなった府庫でリオウは息をついた。
はじめてみた闇姫。
昔から縹家の中で絶大な権力を持ち、その力は王を呪い殺す。
その恐ろしさからある時から幽閉されていたと聞くが・・・。
あの娘から全くそんな感じはなかった。力の方も人畜無害。
いや、人のほうに微妙に害があるかな・・・。騒ぐほどでもないけど。
また府庫の扉が開いた。
リオウは気配を消した。全く、夜だというのに人の出入りが多いところだ。
入ってきた人物は迷いもせずまっすぐこちらに向かってきた。

「そこにいるのは誰だ。そこは余の取って置きの場所・・・・」

リオウはその人物をじっとみた。
そういえば、なんとなく先ほどの娘と同じような雰囲気を漂わせている・・・
背格好からして間違いない。・・・認めたくないが・・・

「・・・もしかしてあんたが、紫劉輝か?」

あんな闇姫もいればこんな王もいるのか・・・とリオウは今日一日でまた一つ世界を知った。

   

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